ラスベガスーその後ー

豪華ホテルのベットは、改めて見ても大きなものだった。
 そもそもベッドルームが室内にあるというだけでも驚きだったのだが、そこに足を踏み込むと余計に高級な雰囲気に飲まれそうになる。
「……ユウタ、そんなとこで足止めるなよ」
「だ、だって」
 入口を潜って一歩進んだ後、フェイトは足を止めてしまった。後に続いていたクレイグが彼にぶつかりそうになりながら、不満を口にする。
「一緒のベッドなんて今更だろ?」
「そうじゃなくて……なんていうか、色々凄いだろ」
「あー、そうだな。でも、それこそもう慣れだろ。……ほら、寝るぞー」
「!」
 雰囲気に押されて未だに歩みを再開しないフェイトを、クレイグはいとも簡単に抱き上げた。そして彼の反応を待たずにスタスタと歩いて、ベッドの上にフェイトを降ろしてから自分も傍に座る。
「……いきなり、お姫様抱っこは無いだろ……」
「ボーッとしてるお前が悪い。しかし良いベッドだなぁ」
 ぷぅ、と頬を膨らませて抗議をしてくるフェイトを横目に、クレイグはベッドの質を確かめてそう言った。後半はほぼ独り言だ。
「…………」
「どうした、ユウタ」
 寝転がったままで自分を見上げてくるフェイトに、クレイグは声のトーンを落として言う。
 肩越しに振り向く彼の姿は、どこと無く色っぽい。
 そういう風に意識してしまったフェイトは、慌てて「なんでもない」と言いながら、くるりと身体の向きを変えてクレイグに背を向けた。
「……無防備だな、お前は」
 ギシ、とベッドがしなる音がした。
 直後にクレイグが近寄る気配があって、フェイトは身をすくめた。思わず息も止めてしまい、それに気づいたクレイグは小さく笑う。
「ユウタ、意識しすぎだ。……何もしねぇよ、今日は」
「クレイ……」
 低い声が耳元に落ちる。
 それにビクリと震えながら、フェイトは閉じていた瞳を開いた。
 ゆっくりと振り向いて、傍の彼を見上げる。
「……キスだけはしていいよな?」
「何もしないって言ったばかりなのに」
「言うなよ、これでもめちゃくちゃ我慢してるんだぜ。交換条件だとでも思ってくれよ」
 そんな会話をしている間にも、唇が近づいてくる。
 フェイトもそれを拒絶しきれずに、そのまま彼のキスを受け入れた。
 必然的に高鳴るのは胸の内。それをクレイグに知られないだろうかと思いながら、彼は瞳を閉じる。
「……、ん……」
 重なる唇がゆっくりと交わされた。
 フェイトが吐息を外へ漏らすタイミングをクレイグは僅かに作ってくれる。
 改めてのことになるが、クレイグはキスが上手かった。こうして数回交わしているだけでもそれが伝わって、フェイトはどんどん自分の心臓が高鳴っていくのが分かる。
「ク、レイ、……も、やだ……」
 思わず、彼の胸に手が伸びた。そして腕の力を込めてクレイグの身体を押そうとするが、彼はそれを許してはくれない。
「……こう言う時の抵抗は、相手を煽るだけだぜ、ユウタ」
 クレイグは至近距離でそう告げた後、またフェイトの唇を貪ってくる。
 胸に添えられたフェイトの手は、すでに取り払われてベッドに押し付けられている状態だった。
「んん……っ、……」
 言葉を作れずに、数秒。
 クレイグの舌がフェイトのそれを捕らえてくる。ビクリ、と身体を震わせるがそれ以上はどうにもならずにフェイトは深い口付けに翻弄された。
 うっすらと瞳を開けば、直後に飛び込んでくるのはクレイグの青い瞳だ。彼はフェイトの反応や表情を見ながらキスをしていたらしく、楽しそうであった。
「……っ、クレイ、ほんとに、もうやめ……」
 フェイトがもがきながらそう言う。
 するとクレイグは口元で小さく笑みを作ってから、彼を解放した。
「これ以上続けたら本気になっちまう」
「ほ、本気って……」
「お前が欲しくなる」
「う……」
 密着した状態で凄いことを囁かれた。
 つい数時間前まで、「まだ」と言っていたのにと思うが、この状況下では仕方のない事なのかもしれない。
 フェイトはクレイグの言葉にまともに応えることが出来ずに、頬を真っ赤に染め上げて視線を逸らすのみしか出来なかった。
「ユウタ、俺を見ろ」
「……い、嫌だよ。無理」
「――見ろ」
 顔を背けたために、容易に声音が届けられる。
 低い声はフェイトの全身に響いて、また身体が震えた。
 恐る恐る、クレイグを見上げる。
 すると彼は優しい笑みを浮かべて、嬉しそうにしながら「好きだよ」と囁いた。
「色々、ズルいよ、クレイは……」
「嘘は言ってねぇだろ」
 フェイトが頬を膨らませながらそう言う。どう足掻いても目の前のクレイグには適わなくて、少し悔しいようだ。
 だが、いくら狡いと思っても、フェイトもクレイグを好きな気持ちは少しも変わらないし、変わり様が無かった。
「さて、寝るかぁ」
「うん……」
 クレイグがきフェイトの髪をクシャリと撫でながらそう言う。大きな手はいつ触れられても暖かくて心地が良く、フェイトは思わず目を細めながらの返事となった。
「……クレイ」
「ん?」
 クレイグの手を取って、静かに彼の名を呼ぶ。そしてその手を口元に持っていった後で、言葉を続けた。
「好き、だよ……」
「……知ってる」
 か細い声はそれでもきちんとクレイグの耳に届いて、彼はまた優しく笑う。
 フェイトの傍に再び寄ったクレイグは、彼の前髪を払って額に唇を寄せてからゆっくりと返事をして、また彼も横になるのだった。

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