そして未来へ

『弦也の娘』

「お、おい! 待てよ! 何なんだよ、お前!」
「フン、アンタ達が絡んで来たのが悪いんでしょ?」
「チィッ、こいつ、能力者かよ!」
「う、うわぁぁぁぁ……ッ!」

 夜の公園に響き渡った男達の叫び声。
 そんな叫び声の中心に立っていた少女は、倒れた男達に侮蔑めいた視線を送りつけると、小さく鼻を鳴らしてくるりと踵を返した。

「能力者なんて、別に珍しくないでしょうに。
 なんてったって、ここは……――」

 そう呟いて少女は遠くに光るビル群を見つめた。

 東京。
 今となっては“能力者”達が集められた能力開発都市として栄えたこの街には、多くの“能力者”が存在している。
 そんな彼らを守るべく、IO2が国に働きかけて作り上げたこの“能力者開発都市”は、能力開発という目的と同時に、“能力者”の人権を守るべく築き上げられた都市である。

 十五年前。東京で起こった能力者達のテロ行為。
 そしてそれを止めた、数名の能力者の存在。

 今となっては、まるでおとぎ話の様なそんな過去があったこの都市だが、それはれっきとした現実であり、それらのおかげでこの場所が造られたと言っても過言ではないのだ。

「……勇太兄……」

 少女は呟く。
 その苛烈な戦いの中心に身を置いていたのは、自分とは従兄弟に当たる存在なのだと知ったのは、少女が小学生の頃だった。

「……私も、勇太兄みたいに強くなるから……!」

 それは少女の、否。“工藤 優”の誓いであった。

 学園の寮へと帰ると、門の前に立っていた一人の少女がその顔に花を咲かせて振り返り、優へと駆け寄った。

「優姉ちゃん!」
「あら、どうしたの?」

 まだ十歳程度の少女が抱きついて来た事に、優はいつもの事だと慣れた様子で対応する。

「待ってたんだー」

 えへへ、とはにかむ少女。
 優はその少女の頭を撫でて、その瞳を見つめる。黒と、黒の中に混在する様な緑色の瞳。それは少女の父親の血を引いているのだとしっかりと物語っている様な、そんな瞳である。

「いこっか」
「うんッ」

 ――二人の少女の物語りが、ここから始まろうとしていた。

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「――今日、でしたか」

 桜が舞う四月。
 入学の時期に相応しい白と桜色のコントラストが風に舞ってヒラヒラと揺れていた。それらを見つめながら、何やら感慨深い表情を浮かべる白髪混じりに男性。その髪はぴっちりと六対四で分けられており、身を包んだ焦げ茶色のスーツは堅苦しすぎずに正装をしている事を表現している。

 ――この日、ついに彼らがやって来るのだ。

 男性は静かに窓の外を見つめた。

 超能力開発都市、東京。
 虚無の境界との熾烈を極めた戦いがもたらした、超能力への民間人への認知。そして、人間としての進化のネクストステージ。そんな世界への憧れを抱かない者はいないだろう。

 故に、この超能力開発都市は、これまで非公認であった組織、IO2が全面共同するという形を取る事で、この都市は成立しえたのであった。

 超能力とはそもそも、誰もが持ち得る能力であった。
 それを司る人間の染色体。第三染色体が発達した者のみが、一定の干渉力を得るのだ。それは人によって異なり、例えば風。例えば水。それぞれの能力はそれぞれの独自の進化を遂げるとされている。

 しかしながら、東京には一般家庭も存在し、企業の中枢が存在している場でもあった。交通の便を考えると、東京にそこまで大々的な変革をもたらすべきか否か、それらに疑問視する声もあがったのである。
 故に東京と呼ばれるのは、この東京湾を埋め立てて作り上げられたジオフロントによる人工形成島、超能力開発都市東京と、これまで通り存在していた一般の東京の2つに分かれたのだ。
 たかだか十年の着工。そしてそれでも十分過ぎるだけの都市機構の完成をやってみせたIO2以下協力企業。それらの行動力には、日本はもちろん、世界各国が言葉を失ったと言える。

 そんなジオフロントに建てられた一角の学園。
 今日そこに、双子の兄弟が入学してくるのだ。

 たかが二人の新入生であれば、窓辺に立っていたこの男性――学園長もまたここまで気を引き締める必要もないだろう。
 しかし、その双子の少年の姉は、まだ入学して二年程でありながら、既に能力値の計測が困難を極める程である。

「まったく、あの一族は……」

 そんな事を思い出しながら学園長は苦い笑みを浮かべる。
 そんな型破りな兄弟と親戚であった、一人の少女。その子もまた、この超能力開発都市きっての天才と呼ばれている麒麟児である。
 そんな一族の中でも、もっともその親の血を色濃く継いだと思われる双子が入学してくるとなれば、彼が頭を抱えるというのも無理のない話である。

「学園長、入学式が間もなく始まります」
「うむ」

 学園長は歩き出す。
 その胸には大きな不安を抱き、そしてそれ以上にまだ見ぬ才能を見る事が出来るのでは、という淡い期待が込められているのであった。

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