弦也と志帆

『志帆と弦也の静かな夜』

「勇太クン、泊まっていけば良かったのに……」
「なぁに、あれはあれで気を遣ってくれたんだろうさ」

 勇太が訪れたその日の夜。
 夕食の並べられた机を挟んで弦也と志帆は静かに話し込んでいた。優はもう食事を済ませ、小さなベッドの上で両手両足を忙しなく動かしている。

「……あの虚無の境界との戦いから五年……。今でも忘れないわ、あの子の功績も、力も」
「……怖いかい?」

 弦也の言葉に志帆は柔らかな笑みを浮かべて首を横に振った。

「そんな事ないわ。アナタの息子、でしょ?」
「……まいったな。聞こえていたのか?」
「えぇ。私、少し心配だったの。あの子からアナタを取り上げてしまう事になるんじゃないかって。あの虚無の境界との戦いの最中、あの子に命を救われたのは私も同じ。そんなあの子から、大事な人を取り上げても良いのかな、って」

 志帆は静かに告げた。

「……志帆」
「もちろん、私だって譲る気はないですよ?」
「……まったく、お前はいつもそうやって……」

 強気な言葉。
 そもそも弦也に恋をして、一生懸命にアプローチしたのは志帆であった。最初は弦也も歳と勇太の事を考えてか断ってはいたものの、志帆のその甲斐甲斐しいアプローチについには折れ、今の仲へと進展したのである。

 志帆らしいとすら言える様なそんな言葉ではあったが、勇太についてまで口にされた事はなかった弦也。弦也は志帆の心情を初めて聞き、そして若干の驚きを胸に抱いていた。
 煽ったグラスが空になり、そこへ志帆がビールをついだ。

「……勇太は、前にも話したと思うが悲愴を抱いている。だがそれでも、あの子の周りには多くの仲間と呼べる人々が出来たんだ。
 私も、あの子の為に傍に居続けてきた。だが、私がいつまでも独り身では、勇太の負担になるかもしれない。あの子は優しいからな。きっとそう感じるだろう」

「……フフフッ、アナタはやっぱり優に対しても親馬鹿になりそうね」

 志帆の言葉に、口につけたグラスをブッと噴き出し咽る弦也。そんな弦也を見つめて笑いながら、志帆が続ける。

「私はあの子のお母さん、にはなれないかもしれないけど、せめて姉の様に接してあげれればと思っているわ。だから弦也さん。勇太クンをもっとウチに呼んで下さいね」

 志帆の言葉に、弦也は実感する。
 ――本当に志帆と一緒になって良かった、と。

「……あぁ、ありがとう。だが……――」
「――だが?」
「IO2の特級エージェントをそんなにちょこちょこと呼びつけていては、私に言及がきそうだな、と」

 弦也なりの冗談混じりの嘆きに、志帆はまた小さく笑みを浮かべるのであった。

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