『懐かしい記憶――ヨーハン でぃれくたーずかっと』
「どういう事です? アイツはただのエージェント志望なんじゃ?」
ユウタ――いや、フェイトを迎えに行って帰った俺に部隊長が告げた、唐突な決定事項。
俺の配属されているGUNSの訓練に、あのフェイトとやらをGUNSの特殊任務に付き添わせ、
戦闘能力を計ると言い渡されたのだった。
GUNSはバスターズに所属する銃火器部隊。日本にもそういった部隊はあるそうだが、
ここはニューヨーク。自由と犯罪が背中合わせになった街だ。平和ボケした島国とは訳が違う。
足手まといを連れて歩くってのは、俺や隊員の仲間の命にリスクが増えるって事だ。
納得出来るはずがねぇ。
「サポーターと一緒に動く事になるんだが、彼のサポーターにエルアナをつけるつもりだ」
「エルアナ!?」
思わず声をあげて部隊長に尋ね返した。
エルアナ=トレイニー。
若干十六歳にしてIO2に入って来た、IQ140を超えた女。
天才に相応しい頭の良さと、年齢に不釣合いな冷静な女。今は二十歳だったか。
パートナーの腕に納得が出来ない限り、あっさりと自分からサポーターを降りるっていう、
なかなか性格のキツい女だ。
特に面識はないが、それでもアイツの名前ぐらいなら俺だって知ってる。
「日本のディテクターの推薦。その実力を、しっかりと見せてもらおうと思ってな」
◆◇◆◇◆◇◆◇
ブリーフィングに用意された書類は、日本語でわざわざ修正された物もある。お客様扱いにしちゃ、
ずいぶんと厚待遇って訳だ。
GUNSのメンバー7名と部隊長。それにエルアナとフェイト。
何だってんだ、この異質な組み合わせは。
『――作戦概要は以上だ。何か質問は?』
「ヨーハン」
「あ?」
「通訳お願い」
「……チッ、何だよ?」
「この程度の仕事に、こんなにメンバーを揃える必要があるの?」
フェイトの放った一言に、俺は思わず椅子から立ち上がり、フェイトの襟首を掴んだ。
「……テメェ、何様のつもりだ……?」
「正直、こんな程度なら人数はいらないと思う」
真っ直ぐと俺の目を見つめて、フェイトはそう告げた。
任務は、能力者のギャング集団の制圧だ。確かにGUNSがわざわざ出張る必要はねぇ。
だが、素人のガキがそんな事を言うってのは論外だ。
俺達GUNSはバスターズの精鋭部隊として訓練している。そのやり方を、俺達自身を
こいつは否定的に見たって事じゃねぇか。
「テメェ、フザけた事――!」
「――私は彼に同意ですね」
「んだと!?」
日本語での会話に、エルアナが口を挟んできた。
『隊長。フェイトは能力者であり、かのディテクターの推薦です。ここは彼の言う通り、
人数を減らしてみれば良いのではありませんか?』
エルアナの野郎、乗っかってきやがった……。
だが、フェイトを信頼してるって訳じゃねぇな。あれは見定める為にテストする腹、か。
眼鏡の奥の目は冷淡にフェイトを見つめてやがった。
『GUNSとしての任務に、口を挟まないでもらいたいね』
『あら、良いではありませんか。彼を任務に連れて行くのは、力量を計る為でしょう?
それなりの価値があるか見極めるのなら、彼の提案を踏まえた上での方が良いですわ』
――冷笑、か。
エルアナの野郎も、どうやらフェイトが噂程じゃないと踏んでやがるな。
失敗するならそれまで。日本に帰れ、とでも言うつもりか……?
確かにフェイトが言った事は俺達に対する侮辱だが、エルアナの野郎の言い分を聞いて
失敗させるってのは生け好かねェ。
『隊長。だったら俺達は後方支援にまわりましょう。人数を減らして、失敗したら
元も子もない』
『……良いだろう。エルアナ、異論はないか?』
『えぇ』
くすっと笑って答えたエルアナ。
見た目的には味方の体裁ってか。フェイトの野郎じゃ気付きはしないか――。
――いや、どうやら気付いてやがるらしいな。
ブリーフィングが終わり、俺達が解散してる中、エルアナがフェイトに声をかけた。
「良かったわね。アナタの要望が通ったわ」
あの野郎、よくもしゃあしゃあと。
「感謝はする。けど、アンタの予想通りの失態なんて俺は起こさないよ」
その言葉と同時に発せられた威圧感。
それは、まるで別人かの様な圧倒的な強さを醸し出していた。
俺だけじゃない。その場にいた全員が、エルアナでさえも、
フェイトのその発した空気に息を呑んでいた。
**********************************************
俺達は近くの指示車からその状況を見つめていた。
エルアナは早速周囲の状況を把握すると、指示を送った。
ご丁寧に日本語で。
「フェイト。その先に目標の溜まり場があるわ。サーモグラフィーから見るに、人数は――」
「――12。ブリーフィング内容とは違うみたいだし、何人か出払ってるみたいだ」
思わずエルアナも俺達も言葉を失った。
フェイトのいる位置から、相手の人数を把握出来る事なんて不可能なはずだ。もちろん、
その為の装備を持たせてる訳でもねぇ。
なのに、どうして正確な状況把握が出来る。
――「ジュニアハイスクールって何だよ」
……そうか。あの野郎、能力で思念を読み取りやがったみたいだな。
『……フフ、ここまでは合格ね』
エルアナの野郎も大概尋常じゃねぇ、か。
フェイトの能力に対して驚きながらも、楽しんでやがる。
「おい、フェイト。どうするつもりだ? 後方支援、いるか?」
「いらないね」
――瞬間、フェイトの身体につけていたカメラの映像が溜まり場である倉庫の中に入り込んだ。
『な……ッ!?』
『嘘!?』
モニターを見つめた俺とエルアナは、思わずその唐突な行動に声をあげた。
『なんだ、テメェ! どっから――!』
「――生憎だけど、俺英語苦手なんだよね」
そこから先は、まさに刹那だった。
その場にいたギャング集団が一斉に周囲の壁に叩き付けられて、そのまま身動き一つ取れずに
宙に浮いていた。
唐突過ぎるその能力と、その直後にフェイトが告げた一言。
日本語が理解出来る俺とエルアナだからこそ、その言葉はただの嘲けりじゃないと分かった。
「能力を使って悪事を働く、なんてさ。その能力のせいで、人がどれだけ傷ついて、自分がどれだけ
苦しめられるか。アンタ達はそれを知らないんだね」
――制圧所要時間、数秒。
アイツの言っていた人数に対する指摘は、ただのハッタリでも何でもなかったらしい。
『……フフ……フフフフ……。良いわ、フェイト……。その凶暴なまでの強さに、その言葉……。
私が知らない何かを、アナタは持ってるのね……』
――エルアナとフェイト。
この日、俺の目の前にはこの二人の『化け物』がその姿を焼き付けた。
結局、この一件で圧倒的な力を見せちまったもんだから、GUNSからは顰蹙を買い、
上層部からは『能力使用制限』を設けられる事になった。
それからは銃の特訓をしたんだが、何せ酷いもんだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
俺の妹、メイ。
アイツがIO2に入ったのは、四年後。つまり、つい先日の話だ。
仕事の話は例え家族であっても厳禁。その上、エルアナと同じサポーターとして
働く形になっちまったが、どうやらフェイトとエルアナにすっかりあてられちまったらしい。
離婚して離れて暮らしていたせいか、何処か他人行儀になりがちだったメイと俺の関係だったが、
あの『フェアリーダンス』の事件以降、何かと俺に電話してきてフェイトとエルアナに会いたがりやがる。
おいおい、妹まで『化け物』の仲間入りなんて勘弁してくれよ。
アイツが日本に行ってる間に、一人前のサポーターになるって息巻いてたのは良いんだが……。
頼むからアイツには惚れないでくれよ?
エルアナを敵にしたら、色々な意味で心配だから、な。
FIN