FateーN.Yにてー

『とある年を迎えた日』

「3,2,1.A HAPPY NEW YEAR!!」

 割れんばかりの歓声が、ネオン煌めくニューヨーク。
 タイムズスクエアで行われる大晦日のカウントダウンと共に、花火が打ち上がる。
 道路は何ブロック先も遮断されている。

 西側のポートオーソリティーバスターミナルよりやや北東にフェイトはいた。既にここはもう
エリア内に入場できないぐらいの人であふれかえっている。

 歓喜し、歓声をあげて手に持ったビールを煽る者達。テレビクルーの取材に向かって、何処か
同情的な視線を送りつつ、勇太はこのニューヨークに来て幾度めかのイベントに身を投じていた。

「うへぇ、盛り上がってるなぁ……」

 日本にいたら、成人式を迎える年。
 勇太の場合は成人式を何処で受ければ良いのかすら見当もつかないのだが、幼い頃に転々とした
生活を送っていたせいか、どうにも自分には縁遠い話だ。

「にしても……人ばっかりで何処だか解らないよなぁ……」

 フェイトは周囲とは違う日本語で小さく呟いたのだった。

 ――迎春のパーティーをしよう。

 金髪碧眼。長身でスタイルも良く、眼鏡をかけた美女にフェイトはその提案をされた。
 オペレーターと呼ばれる、エージェントに対して位置情報や作戦状況を連絡する人間。彼女はフェイトの
専属オペレーター、エルアナ・トレイニーだ。

 周囲の熱烈なアプローチを尽く撃沈し、ついた仇名は『イージス』。まさに潜水艦の如く、魚雷で全てを
海の藻屑へと変えてしまう。

 閑話休題。

 エルアナに誘われたのは、ジャッシュとフェイトの二人だったが、ジャッシュは承諾したにも関わらず、
結婚したばかりの赤毛の妻、ネミーの待つ我が家で寛いでいる。要するに、ドタキャンした。
 それに便乗しようものなら、フェイトに今後エルアナからの八つ当たりが発生する事は容易に想像出来る。

 つまり、フェイトは見事に逃げ遅れた、という訳だ。

 アンダーグラウンドに展開する、情報通しか知らないこじんまりとして薄暗いバー、“ファクター7”という店。
そこで待ち合わせをしているのだが、このタイムズスクエアに近い場所では十分に移動するのも大変だった。
おかげでカウントダウンには間に合わず、エルアナからも何度も着信が入っているのだが、周囲の歓声によって
その事にフェイトは気付いていなかった。

「あぁ、もうっ!」

 人の視線から外れるように人波から路地裏へと逃げ、フェイトはテレポートする。
 街中での能力の使用は、極力事件を追っている最中以外は禁じられている。しかし、このままエルアナを放置する
という訳にもいかない。それはかつての脅威、“虚無の境界”に献血するのと同義だ。

 かくして、フェイトは“ファクター7”のトイレにテレポートして現れた。

 トイレから出たフェイトは静まっている店内に目を向けると、カウンターで携帯電話を片手に肘をついている
エルアナを見つけ、歩み寄る。
 長く流れるようなストレートの髪をなびかせ、いつもは近寄り難さを増す眼鏡と色気のない黒いスーツを着る
エルアナ。しかし今日は、背の大きく開いた青いドレスと、銀細工のされた髪留めで髪をアップにし、眼鏡をかけ
ていない。

 その姿を見て、思わずフェイトも胸の高鳴りを感じた。

「エルアナ。ごめん、間に合わなくて」

 エルアナの隣りで手を合わせて頭を下げるフェイト。日本式のその作法が通じるかどうかは別として、フェイトは
それをしながら口を開いた。
 ロックのブランデーが注がれたグラスに入った氷をクイっとグラスを回して動かすエルアナ。上気した頬は色気を
増し、その表情はいつもとは違う。目は酒のせいか潤み、目元のホクロが眼鏡がない為に強調されている。

「……フラれたかと思ったわ」
「え……?」

 ボソっと小さな声で呟いたエルアナの言葉を聞き逃したフェイトが、尋ね返すように、エルアナへと声をかける。
怒っている様子ではなく、呆れたような小さな笑みを浮かべた後で、エルアナは立ち上がる。フェイトと同じ程度の
身長。バーテンダーに軽くウィンクをしたエルアナにバーテンダーが頷きを返し、しゃがみ込んでバラードジャズを
流した。

「ダンスに付き合ってくれる? 遅れた罪滅ぼし、よ」
「で、でも俺、そういうのは知らないし――」
「――良いから」

 エルアナがそっと両手をフェイトの首に回し、歩み寄る。胸元の空いたドレスに、上気した表情。『イージス』と
呼ばれている事を一切感じさせない姿で、エルアナがするりとフェイトの手を取り、身体を密着させてステップを
踏む。ゆったりとしたステップで顔をフェイトの横へと近付ける。香水の匂いがふわりとフェイトの鼻をくすぐった。

「あ、の……」
「フフ、顔を赤くしちゃって。緊張してるの?」
「そ、そんな格好で近づかれたら、そりゃあ――」

 エルアナがフェイトの言葉を遮るように、頬に唇を当てた。

「――……アナタと一緒に新しい年を迎えたかったけど、今日はこれで我慢するわ」
「え……っと……」

 エルアナがフェイトから身体を離し、笑顔を浮かべて口を開いた。

「ハッピーニューイヤー、フェイト――いえ、ユウタ」
「あ、あぁ……」
「飲みましょ?」

 何処かふわついた空気を感じながら、フェイトはエルアナの隣りに腰かけた。

FIN

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