柴村百合

『眩しすぎる世界』(百合目線)

 ―現行時間からおよそ一年前、夏。
 時刻は深夜。街を見下ろせるこの建設中の建造物。そして、その頭頂部に、私はいた。
「…(…あれから、もう四年…)」
 不意に手を見つめる。この手にはもう、人としての温もりを感じる資格なんてない。

 ―薬品がなければ生きれない身体。
 ―失敗作というレッテルと、憐憫の眼差し。
 ―耐え切れない迄の屈辱…。

 心は枯れている。悔しい、憎い。そういう負の感情ばかりで、それを哀しむ人間も、
私をそんな闇の中から救おうとする人間も、この世界にはいない…。

「…(…盟主様は、私を利用した…。それだけの為に、私は…)」

『アンタは“被害者”だった! それを救ったのはIO2じゃないか!』

 ―アイツの言葉に、私は耳を傾けなかった。
 ―アイツなら…、私を救おうとするのかな…

 不意に胸がきゅっと苦しくなる。締め付けられている様な痛みに、何故だろう。泣きたい…。

「…でも、もう戻れない…。戻れないよ…」

 ―身体は既に薬品まみれ。
 ―アイツの首をこの手で絞めてる夢を見た。
 ―でもそれは、本当は自分自身。今の私が、戻りたいと泣く私の首を絞めていた。
 ―それを、私は泣き出しそうな気持ちで見ていた。

 いっそ、この汚すぎる心と身体と共に朽ちてしまいたい…。そうすれば、少しは楽になれる。
 そんな事さえ、脳裏をいつも過る。

「うっ…!」

 急に襲い掛かる激しい頭痛。発作だ…。
 ―このまま薬を投与しなければ、私は死ねる…。

 ―でも…、生きたい…!
 ―どんなに醜くても、死にたいと願ってみても、私はまだ生きたい…!

 注射器を空間転移から引きずり出し、自分の腕を幕って突き刺す。薬品の臭いが鼻につく。
 休息に痛みが引いていく中、私はアイツの顔を思い出す。

「…工藤 勇太…。もし私が死ぬなら、その時、アナタは泣いてくれるの…?」

 答えが返って来る筈はない。
 アイツに、聴こえる筈ないのだから。

 ―なのに、アイツなら言ってくれる気がする。
 ―こんな壊れた私にも、「生きろ」と怒って、泣いてくれる気がする…。

「…会いに行きたいよ…」

 百合の頬を、ほんの一粒だけ涙が伝う。

カテゴリー: 01工藤勇太, おまけノベル(白神WR), 白神怜司WR(勇太編) パーマリンク