Summer partyでびっくりどっきり!?

■さまーぱーてぃさんかしゃぼしゅう

 かっこう:みずぎがいいとおもうよ
 きがえ:じこはんだん
 にんずう:おおければおおいほど
 にちじ:まんげつのよる
 ばしょ:いくうかんないようかんのうみべ(おぼれないでね!)

 さんかしゃは『まんげつのよる』に『きがえたじょうたい』で、この『しょうたいじょう』をにぎりしめてまて。

 よだん:みんな『ふぁいと!』です。

 ついしん:さきにさんかしちゃっただれかさんのかんそう。

「正直、面白かったけどマジで死ぬかと思った」

  ――――――――――――

 それは一週間前の出来事。
 参加者達の目の前に突如現れた一枚の紙切れ。
 ある者の元には住んでいる家の玄関に貼り付けられ、ある者など戦闘中突如空から降ってきた。各々紙を見れば子供の筆跡で上記のような文章が綴られていたのだ。中には子供の悪戯だろうと紙をゴミ箱に捨てるものもいたが、不思議なことにその紙は戻ってきてしまう。

 ―― そしてパーティ当日。
 招待状が光り、目が覚めた時には異空間。しかも昼。
 各々水着(及びそれに該当する)姿で揃ったメンバーは、明らかに海の家と言った建物とその前に立つ肌がこんがり焼けた水着姿の男はこう言った。

「では皆様、今より自力でのパーティの食糧確保をお願いいたします。海鮮は新鮮さが大事ですからね。巨大サザエなどもいいですが、タコとかイカとかとても美味しいですよ。あ、ちなみに飲み物や野菜類はこっちで用意してありますのでご安心下さい」

 ザァザァ。
 寄せては返す海辺、そこには巨大海鮮モンスター達が自分達を手招くように触手をにょろにょろ伸ばしていた。

■■【scene1:工藤 勇太(くどう ゆうた)の場合】■■

 問題の一週間前の朝。
 高校生男子である工藤 勇太(くどう ゆうた)は自分の学校の下駄箱の前でふるふると一枚の紙切れを握り締めながら歓喜に震えていた。高校生にとって下駄箱の中に手紙と言えば一つ! そう、それは!

「こ、これはもしや恋文!?」

 青春を謳歌している高校生にとって恋愛事も大事な事。恋人が出来れば人生薔薇色のハッピー。もちろん、出来なくても不幸とは言わないが、心構えが変わる事はあるだろう。もちろん別の面で青春を捧げる人間もおり、その人たちはその人たちなりに人生を謳歌している。
 だが勇太にとってやっぱり恋愛事は学生において重要と心に定めており、それはもう意気揚々と手紙を開いて――。

「とりゃっ!!」

 くしゃくしゃぽい!
 中身を読んだ瞬間、ゴミ箱に捨てるという結果に。
 ひらがなだらけの文面におかしな誘い文句。これに警戒しない訳が無い。勇太はそのまま午前中の授業を受け、やがて手紙の事を忘れかけていた昼食時――。
 お弁当の蓋を開けばまたあの紙切れ。
 そっと蓋を戻す。俺は何も見なかった。何も見なかった。そうこれは幻覚。次開いた時にはいつも通りの光景が広がっていると信じて。
 しかしまた開いてもそれはあった。

「勇太ー、お前さっきからなんで弁当の蓋ぱかぱかしてんの?」
「……抗えぬ何かが俺を呼んでいる……」
「はぁ? 暑さでボケたか」

 友人の一言もあり、彼は自身の顔を覆うとしくしくと泣き始めた。

■■【scene2:飯屋 由聖(めしや よしあき)と阿隈 零一(あくま れいいち)の場合】■■

 二人の手元に現れた紙切れ。
 それは阿隈 零一(あくま れいいち)が悪魔を倒した後にひらりと降ってきたもの。二枚出現したそれは綺麗に零一ともう一人、飯屋 由聖(めしや よしあき)の元へと狙いを定めて降りてきた。彼らは互いに顔を突き合わせ、内容を読んでみれば全く文面。
 ひらがなの多い招待状――これに切れたのは零一である。

「こんな怪しい所に行けっかよ!」
「へー。楽しそうじゃない」
「いやいやいや、こんな危険そうな場所に由聖を絶対行かせられるかよ」
「危険かどうか行ってみなきゃわからないじゃない」
「行かせらんねーっつってんのに、行く気かよ! ったく、破棄だ、破棄!」

 零一はそう言うと二人分の紙切れをびりびりと細切れにしてコンビニのゴミ箱の中に捨て去る。さあこれで問題は解決したと手を払い由聖の元に戻ったのだが、彼は天使のような微笑を浮かべながら何故かまたしても二枚の招待状を持っている始末。
 即座に零一は紙を奪い取り、また捨てに行くが――捨てても捨てても戻ってくる紙切れに零一はやがてがくりと肩を垂れ下げた。

「くっそ、満月の夜はお前ん家に泊まりに行くからな! ……も、もちろん警護の意味で」
「あー、お泊りっていいよねぇ。水着とか着替えとか準備しないとー。零一はどんなのが良いかな~。あ、今から水着買いに行く?」
「お前には危機感というものがないのかー!」
「え?」

 両手を合わせ既に不思議な招待状を握り締めながら想いを馳せている由聖に零一は叱咤する。だが普段から天然気味な彼のこと。特に気にした様子は無く、満月の夜に胸をときめかせているのであった。

 そして当日の夜。
 由聖の部屋から見える空には見事な円を描いた月が浮かんでいた。零一は自分の分の着替えなど当然持ってきておらず、むしろ何か変化があればすぐに由聖を連れて逃げる気満々であった。だがそれはもう最早予想の範囲内だと由聖は知っているため、自分の荷物の中に相手の分の水着や着替えを詰め込んで準備は万端。
 由聖は日焼けが苦手なので、短パンタイプの水着の上に大きめのパーカーを纏い、そして麦藁帽子も忘れない。

―― 本当に危機感の無さ過ぎるだろっ!! 色んな意味で!

 中性っぽい顔立ちと肌が白い事もあり、胸元が隠れていれば女の子にも見えそうな由聖に対して零一はもやもやとした気分を抱き、苛立ちをそのまま貧乏揺すりと言う形で表す。
 そして。

「うわっ! 眩しっ!」
「何、招待状が光りだして――っ」
「由聖、それを離せ!」
「え、え、えええ!?」

 零一の警戒心も虚しく、シュンッと二人の姿がその場から消え去る。
 後に残ったのは……開きっぱなしだった窓の痕跡のみ。

■■【scene3:セレシュ・ウィーラーの突っ込みと狩人達】■■

「ちょいまち、どこがサマーパーティーやねん!?」

 金色のウェーブ掛かった髪に背中に一対の金色の翼を持つ少女、セレシュ・ウィーラーは男が吐いた「ちょっと海生物狩ってこい」(要約)の言葉に思わず突っ込みを入れてしまった。
 彼女はあの招待状に従い、しっかりとパレオ付きのビキニタイプの水着に着替えている。そして召喚されるがままに異世界の海辺へとやってきたのは良いが、そこで告げられた言葉に彼女は驚きを隠せないでいた。

 確かに彼女の眼鏡越しに見える目の前の景色にはバーベキューセットらしきものは用意されている。
 一緒にセットされた簡易テーブルの上には野菜も準備されており、それだけを見れば確かにバーベキューパーティなり、サマーパーティなり言えるだろう。しかし材料を取って来いとはどういう事か。本来ならば全てを準備した上で招待するのが礼儀ではないのか。
 彼女の言葉に同意するほかの召喚者達も多くおり、ぶーぶーとブーイングが飛ぶ。

 逆に戦闘が好きな者はこれ幸いと既に狩りに出かけてしまった。
 後ろの海からは楽しげな――訂正、阿鼻叫喚の声や、ヒャッハー! しちゃった人の声が聞こえてきて戦闘系ではない者達は若干冷ややかな視線を送っている。

 セレシュは「どないしてやろか」と眉間に指先を押し当て考える。
 バカンスを期待していた自分が悪いのであろうかとまで考えたが、そんな事はない。実際セレシュ同様バカンス気分でやって来た者も居り、彼らもどうするか迷っていた。

「あー……学校指定の水着とはいえ用意しておいて良かった……でも暑いー……」

 不意に隣からだらけた声が聞こえセレシュはそちらへと顔を向けた。
 そこに居たのは勇太で、彼は水着の上にパーカーを羽織った姿でだらだらと汗を流している。ふっと彼はセレシュを見やる。そして彼は大きく目を丸めた。

「え、あ、あれ? セレシュ、さん?」
「なんや、あんた。うち、あんさんのこと知らへんねんけど」
「え、え、あ、でも確かに俺の知ってるセレシュさんは人間で――えええ!?」
「別人ちゃう? 人違いされんのいややわー」
「あ、す、すみません。っと、俺は工藤 勇太! 宜しくな」
「お、挨拶されたんやったらしかえさなな。うちの名はセレシュ・ウィーラー。よろしゅうな」
「…………名前まで一緒」
「なんか言うたか」
「なんでもありませんー! ……う、叫んだら余計に暑くなった気がする。うー……暑いー……死ぬー……溶けるー……」
「うちは勇太さんのその声聞く方があつぅなるわ。ちょっと黙ってくれへんか?」
「ぐさり」

 勇太はセレシュの事で若干悩みつつ、背後に広がる海を見やる。
 やっぱりそこでは既に漢達の――いや、狩人達の戦闘が繰り広げられていた。巨大なイカにタコがその触手で人を絡めとり、剣を持つものがそれを叩き切る。何故パーティなのに戦闘。何故海に来てまでナマモノと戦わなければいけないのか。暑さにやられた頭ではもう何がなんだか分からない。

「ほら、零一はやっぱり準備してこなかったから着替えに時間を取られたじゃない」
「なんでお前が俺の分の水着を用意していたのかの方が気になるんだけどな!?」
「だって零一ぜーったいに何も用意しないと思ったから!」
「実際その通りだったけどよ!」

 海の家の方からは二人の少年が現れる。
 年の頃は勇太と同じくらい。――それは水着に着替えた零一と由聖だった。彼らは勇太の姿を見つけると片手を挙げ、寄って来る。いや、懐っこい笑顔を浮かべていたのは由聖で、実際零一は勇太に対して少しだけ眉根を寄せた。

「工藤さんも来ていらっしゃったんですね! で、パーティの準備は一体どうなったんですか?」
「ちっ、お前も居たのか」
「……なんで俺、嫌われてんの? いや、それが――」
「うちが説明したるわ。もう黙ってるのもあほらしいしな。というわけで皆、海の方を見い。あ、うちセレシュ・ウィーラーと言うねん。よろしゅうに」
「あ、僕は飯屋 由聖です。わー、黄金の羽だー」
「お前、天使か?」
「……まあ、うちの種族なんておいといてええ。どうせ多種族入り乱れ取るし」
「「「確かに」」」
「で、説明なんやけど……――」

 セレシュが海の方へと指を指し示す。
 そして海の男が言い放った言葉をそのまま繰り返し、そして深い溜息を付いた。その言葉にひくりと表情を引き攣らせたのは当然零一。由聖は意外にも「へぇー」と暢気な声を出すだけだった。

「意味わかんねー……つーか、なんでデカイの……? これ、狩るってより逆に狩られね? 俺達。絶対ッアー! なフラグだよな? な?」
「『あー!』ってなんですか、工藤さん」
「つーか、ざけんな! んな危険な事できっかよ! 俺は降り――」
「零一、いってらっしゃい♪ 僕は零一が獲って来た海鮮でお料理するからここで待ってるね」
「え、……アレに立ち向かえと?」
「まあ、あの男曰くそうらしいで? 自分で食べる分は自分で狩れっちゅー話やし」

 四人が集まってうーんっと悩み始める。
 いや、一人だけにこにこと天使のような笑顔を浮かべている人物がいた。「早く行ってくれないかなー。まだかなー。まだ行かないのかなぁー?」という期待の表情を浮かべた由聖だ。

「そこでサボっている方々、こっちの手伝いをするという宣言をした彼以外は行って頂きますよ」
「え、マジで?」
「さあ、……行ってらっしゃいー!」
「ぐぇっ、いやだぁーーー!!」

 男が勇太のパーカーを掴み、しっかり固定するとそのまま思い切り皆が戦っている戦闘場へと放り投げる。その悲痛な声はやがて木霊となり、勇太の姿は巨大モンスター達の中へと消えていった。タコイカ怖い、嫌いな勇太にとってこれは非常に苦痛な事である。
 さて男は次は誰を……、と零一へと視軸を変える。まさか自分も放り投げられるのかとぞっと寒気が走った零一は一歩後ずさった。助けを求めようと由聖の方へと視線を向ける。
 だがしかし彼はそれはもう本気で天使の微笑を浮かべながら一言言った。

「零一の格好良いところ見てみたいなー♪」

 ――終わった。
 結局零一が由聖のお願いを無視する事など出来ないのだ。一瞬は、ぐっと息を詰めるもやがて零一は己の手を拳にし、そして海へと走り出す。

「しゃーねーな! 行ってくる!」

 その表情は言うほどまんざらでもなく。
 零一は惜しみなく自身の能力を活用し、捕らわれていた狩人の一人を助けたりとそれなりに奮闘し始めた。

 そして一人残されたセレシュは腕を組みながら現在戦っている狩人達の行動を分析し、自分がどう動けばいいのか考え始めた。彼女が得意なのは回復・防御・補助魔法。一歩引いて皆が危険に陥った時に踏み込めばいいかと思案する。彼女自身、近接攻撃や攻撃魔法もそこそこ使えるが基本的には後衛支援が妥当だろう。

「よっしゃっ! うちがする事も決まったで!」
「いってらっしゃい~。皆無事に帰ってきてね~!」
「由聖さんも、準備とはいえ気をつけやー。こっちまで来ぉへん保証はあらへんねんから」
「はーい、気をつけておきますー」
「あんさんが怪我すると彼氏さん心配しはると思うでー」
「あ、……うん。そうだね」

―― あれはきっと僕の事を女性だと勘違いした……かな?

 セレシュの言葉にちょっとだけ困ったように笑みを浮かべるも、零一に心配をかけないよう気をつけようと思ったのも本当。そして全員が巨大モンスターと戦いに出た頃、由聖は海の男と戦闘能力が一切無い人達と共に残りの準備を始めた。皆が海に行ってる間テーブル出したりバーベキューコンロの準備したり、疲れて途中で帰ってきた人達には冷たい飲み物渡して「お疲れ様」と笑顔を向けたりと。
 そうして英気を養った人達はまた巨大モンスターと戦いに出て行くので、巨大イカタコがこっちの方に触手を伸ばす隙はなく、それだけが唯一の救いだった。
 

「皆ー! 回復魔法かけんでー!」
「「「おー!」」」
「あと補助魔法欲しい人おったら手挙げー……って多いわ!!」
「皆、補助魔法は欲しいってーの」
「零一さん、あんさんもかい」
「俺だって加護は欲しい」
「しゃーないなぁ。……うー、うちこれ終わったらぶっ倒れとんちゃうか……」

 セレシュの回復、そして補助魔法は前衛には非常に有り難く、彼女が唱える度に士気が上がっていく。
 零一は補助魔法を受け、より一層破壊力が増した己の能力で巨大モンスター達にダメージを与え、時にトドメをさす。ふと零一の視界の端に勇太が見え、彼が助けを求め、もがいているように見えたが……。

「ま、自力で何とかすんだろ」

 放置する事に決めた。

■■【scene4:戦いの終焉】■■

 ザァ……ザァ……。
 夕日が沈み始める頃、戦いは終結した。もちろん召喚者達の勝利によって。

「勝ったぞー!!」
「ぉぉおおおおお!!」
「やったぞー!!!」
「そうだぁああ!!」
「つまり」
「つまり?」
「飯の時間だぁああああ!!」
「うぉおおおおおおおおおお!!!」

 どうやら召喚者達の中に熱血漢が居たらしく、無駄に皆で盛り上がる。
 通常ならば装備なりなんなりと纏っている癖に、今回は水着という事でそれも無し。普段よりもボロボロになった狩人達がぞろぞろと獲物を連れて戻ってくる。

「大漁大漁っと」
「あー、つっかれたぁー……なんやえらい目におうたわ」
「お、これもついでにっと」

 波打ち際に流れ着いていた『ソレ』を零一は引き上げ、そして由聖の元へと真っ先に向かう。その肩には獲物の一部が握られており、零一は己の活躍に満足げ。一方、由聖は戻ってきた彼らを見るとまた冷たいお茶などを出し、癒しに掛かる。

「お帰り、零一。……って」
「大漁だろ?」
「た、大漁って……! だ、大丈夫ですか!? 工藤さんー!!」
「……俺、もうイカタコ食いたくない……」
「波打ち際に打ち上げられていたのを拾ってやっただけマシだろ」

 散々な目にあった勇太は本気で大粒の涙を零しつつ、本日の恐怖にぶるっと身体を震わせる。由聖は慌てて零一にレジャーシートの上に寝転がされた勇太の介抱に向かった。よっぽど怖かったのだろう。勇太は膝を抱え、拗ねたように「イカタコ嫌い、怖い。触手嫌い」と繰り返す。由聖はその度に「大丈夫ですよ、皆が倒してくれましたから!」と必死に心のケアに回った。

「なんや、零一さんの彼女甲斐甲斐しいなぁ。とられんよう気ぃつけや」
「彼女じゃない」
「そうなん? じゃあ余計見張っとかへんと横からかっ攫われてもしらへんで。あ、おっちゃん、うちにもジュース頂戴ー!」

 何かやっぱり勘違いされている気がする。
 うっかり噛み合ってしまった二人の会話を由聖は聞きながら、勇太の肩を揺らし「ご飯一緒に食べましょうよー」と優しく諭した。

■■【scene5:さまーぱーてぃ!】■■

「なんや、凄い大味かと思とったけど、意外と美味しいやん」
「でしょう? ちゃんと調味料とか刷り込んで、下味をつけてあげればあんな巨大モンスターでも立派に美味しくなるんです」
「それ、生やとマズイっていう風に聞こえんで」
「はっはっは、気のせいですよ。あ、向こうの方では工藤さんがあわびなどを焼いてくれてますから食べに行くと良いですよ」
「おおきにー」

 海の男が切り分けたタコやイカの足をサラダ風に仕立て上げたものをテーブルに置くと、一斉に群がる。しかし女性優先思考の男性がセレシュの分を取り分け、小皿に乗せたものをすっと差し出した。彼女はそれを有り難く頂きつつ、先程男に言われた方を見やる。

「う、う、う。最初から俺、準備係で良かったのに」
「――ありゃ、ちょっとしたトラウマになっとんなぁ……。あ、おいし」

 泣きながらも皆が狩って来た獲物を焚き火で焼く係を担っている勇太。
 彼の傍に置かれていた食材は皆、しょっぱい味がしたとか……しなかったとか。

 さて由聖と零一はというと、皆と仲良く談話しつつバーベキューコーナーに居た。各自用意されていた肉や捕ったばかりの大魚を切ったものを炙ったり、焼いたりし、好きなように料理しながら賑やかに食事を取っている。

「ね、来て良かったでしょ?」
「まあな。……あの狩りさえなきゃ」
「あはは、それは皆思ってること、かも?」

 由聖は少しだけ肌に傷を負っている零一の姿を見やると、そっと寄り添う。
 零一はそれに対しては何も言わず、けれどさり気無く相手の方へと近付くように身を寄せた。なんだかんだと傍に居れれば幸せな二人なのである。
 涙ぐんだ勇太にジュースを渡しにいくセレシュ、食べたいものを取り渡す零一にそれを受け取る由聖。他にも今回の戦闘で友情や恋が芽生えた面々が和気藹々と食事をする風景を見ながら男はうんうんっと満足そうに頷く。

「いやぁ、皆さん青春ですなぁ。結果良ければ全てよしなのですよ」
「「「「 お前が言うなっ!! 」」」」

 海の男の言葉に皆一斉に突っ込んだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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東京怪談
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【7587 / 飯屋・由聖 (めしや・よしあき) / 男 / 17歳 / 高校生】
【7588 / 阿隈・零一 (あくま・れいいち) / 男 / 17歳 / 高校生】

学園創世記マギラギ
【mr1850 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 外見年齢15歳 / ゴルゴーン】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、今回はさまーぱーてぃへの参加有難うございます!
 四人での活躍、いかがでしたでしょうか?
 どちらかというと戦闘メインよりも四人でのわいわいがメインとなりました(笑)

 一応これでおしまいでは有りますが、今回は前半です。
 後半にも興味が湧いて下さいましたらぜひ参加してやってくださいませ!

■工藤様
 いつも参加有難うございます!
 そして……工藤様……なんてお姿に……。(ほろり)
 せめてうちのNPCでもぶち込めばよかったかなぁと些か思ったのは内緒です。

カテゴリー: 01工藤勇太, 蒼木裕WR(勇太編), 集合イベント型 |

【珈琲亭】Amber・余談

「で、で、で。二人はどこまで行っちゃってる仲なの? キス? 抱擁?」
「HAHAHA! 今時の高校生はそんなんじゃ収まらねーに決まってるだろ、もちろん。ヤってるよな。se……」
「ぎゃぁああ!! 俺、旅行雑誌買ってくる! カガミ達は勝手に喋っててー!」
「「「りょーかーい」」」

 あの後、朔さんの質問攻撃と言ったら素晴らしかった。
 最初は俺の簡単なプロフィール程度で済んでいたのだが、カガミが冗談で「報酬はキス一回」などと言ったものだから、隙あらば恋話好きな女性らしくそっちの方向へと持って行こうとする。しかも藪医者さん――じゃない、サマエル・グロツキーさんもまたセクハラ的な発言を重ねてくるものだから質問されている俺としてはもうアウト! 限界! と、言うわけで逃げさせていただきます! ぴゃ! っとね。

「しかしあっつい……溶ける……」

 外に出た途端、夏の日差しが俺を容赦なく焼いた。

■■■■■

 一方、俺もとい工藤 勇太(くどう ゆうた)がいなくなった店内では。

「――で、カガミく~ん。ホントに二人はどんな関係なの~?」
「案内人と<迷い子>」
「その割にはkiss一回要求とかイイ仲のようで?」
「だってアイツからかうと面白ぇもん」
「「確かに」」

 声が揃った二人に即座に反応したのは朔。
 天敵と見なしている相手と揃った声が嫌で顔を歪め、そんな彼女をサマエルはにやにやとしたり顔で笑っていた。カガミは甘いカクテルを飲み干すとメニューへと手を伸ばす。その頃には下からジルとゆつも上がってきており、ゆつはいつものカウンターテーブルの定位置へ。ジルはカウンター内へと入り、再び業務に勤しみ始める。

「お、ジル。これちょうだい」
「……飲むのか?」
「勇太がいないからな。未成年の前じゃ飲めない酒くらいたまには」
「…………待ってろ」

 朔とサマエルがぎゃーぎゃーといつも通り攻防を始める。
 そんな騒ぎを見て、カガミは目元を細めてくつくつと普段とはまた違った表情で笑い、ゆつは溜息を吐く。

『ゆるりとねむれるかんきょうがほしいのぅ……』
「HAHA。姫さん、疲れてるね」
『だれのせいじゃ、だれの……ところでカガミ殿』
「ん?」
『けっきょく、カガミ殿は勇太殿とどうなりたいんじゃ?』
「ゆつまで突っ込むか」
『カガミ殿はきほんたんぱくなおかた。勇太殿が<まよいご>であるとしてもめずらしいかんけいせいにみえたゆえ。とうてみたくなった』
「そうだなぁ……」

 ジルが出してくれた酒のグラス、その中に入れられた氷をからから鳴らしながらカガミは暫し考え込む。くいっと一口分だけそれを口の中に入れ、先程よりアルコール度の高いそれを味わいながら彼は言った。

「『どうなりたい』というよりも、『幸せにしてやりたい』っぽい。――でもその先に俺が必要か不要かは問題じゃない」
『かさなる「とき」と「えん」はだいじにせよ、カガミ殿。ぬしはときおり、じこぎせいしんがつよすぎるゆえ』
「心配してくれてありがと、ゆつ」

 多くの時を過ごし。
 多くの縁を結び。
 多くの別れを経験した。

 それはヒトではないモノだからこそ分かり合える感覚。
 日本人形の頭をカガミはそっと被せる程度の優しさで撫で、ゆつもまた己の小さな作り物の手を彼の手に当て、二人で静かに目を伏せた。

■■■■■

 さて、場面は俺へと戻り。

「あれ、もう一つ通帳がある……って何この金額!! 三百万って俺意外と小金持ち!?」

 銀行に行くついでに通帳記載をしようと自宅へと戻れば、普段の通帳とはまた別の通帳を発見した。
 記憶にないそれは実はいずれは母の面倒を自分で看る為の時用に様々な場所でバイトしたお金を貯金していたもの。『母親関係』故に今現在その事すら思い出せない俺はむしろラッキーと降って湧いた幸運に両手を挙げた。
 金銭を切り詰めて九州方面に行かなければいけないと本気で落ち込んでいたけれど、これを使えばなんとか、いや、むしろ余裕で行くことが可能だ。
 良かった。俺の好きなエビフライとかあれとかこれとかを我慢しなくて済むんだ。

 俺は通帳を抱きしめて幸せに浸る。
 考えてみれば結構シュールな光景だが、俺は一切気にしない。
 でも三百万。――やっぱりふっと我に返って少しだけ三百万の入った通帳を眺める。何のために貯めていたのか考え、昔の自分に問いかけたくなった。入金記録によるとかなり細々と入金していた事から、かなり必死に貯めたんだろうなと分かるけど……。

「ちょっとだけ、ちょっとだけ借りるだけから!」

 自分から自分へ。
 通帳を床に置き、それを前に俺はお願いしますと頭を下げてからそっと元の場所に戻した。

「さてっとこれで旅行費用は気にしなくても良くなったけど……」

 問題はカガミだよなぁ。
 ついてきてくれるかなぁ。
 いや、ついてきてくれるんだろうなぁ。
 でもその金ってカガミ出せるの?
 え、どうなの?

「考えてもしかたない! いざとなれば俺が出す!」

 なーんて、既にカガミを旅行の相手に選びつつ、俺は本屋さんで九州方面の地図と旅行ガイドのような雑誌を買い込んで意気揚々と【珈琲亭】Amberへと戻る。

「たっだいまー! 外マジであっちぃー!」
「おかえりー、勇太君~! 今お水用意してあげるねっ♪」
「いや、俺これでいいや。カガミ、喉渇いたからこれ頂戴」
「あ、勇太それ――」

 カガミが手に持っていた氷の入ったオレンジジュースを俺は奪い取り、そのまま一気飲みする。
 ――が。

「ぶふっー!!」
「――それ、スクリュードライバーなんだけど、しかも度数高め設定の」
「ちょ、え、今、マジで飲み干した……ふぇ」
「やっだ、ちょっと勇太君ホントに大丈夫~!? 水、水っと」
「あ、朔さん、ありが……」
「ちょっ、よろけてる! よろけてるって! 水受け取れてないわよー!?」
「うえ、やばい。……一気に回った」
「馬鹿か」

 最初の方は全然平気だったのに、急に腰が砕け俺はその場に座り込んでしまう。
 これには水を出そうとカウンターの中に居た朔さんもびっくり。藪医者さんなんてカウンターに伏せて肩を震わせ笑っている始末。
 だって普段は子供の姿のカガミがスクリュードライバーとか飲んでるなんて思わなかったんだよ! しかも俺ってば走ってきたせいでかなり心拍数が上がってる、イコール、酔いが回りやすいということで……。
 やばい。世界が回ってます!

「あー……俺、コイツ連れて帰るわ。時間ももう夜だし、マジ邪魔した」
「また目の保養に来てくれていいのよ~♪ その時はまた色んなお話聞かせて!」
「う~……かー、がみー……」
「はいはい。飛ぶから。――じゃあな」
『また、ゆるりとはなしを』
「おう」
「……」
「マスタ。手を振ってるだけじゃなくってさようならくらい言おうよ~! っていうわけで、じゃあねん!」
「ふ、ふふ。次はまたcuteなお話が聞けるといいねぇ。あー、腹いてぇ」

 皆が挨拶をしてくれる中、カガミは俺を肩に抱き上げてしまうとそのまま飛ぶ。
 空間移動に伴い、一瞬酔いが更に悪化する気配がして口元を押さえたが、すぐに夏にしてはまだ冷えた風が吹く場所へと辿りつく。どこだろうかと視線を巡らせればそこはどこかのビルの屋上。しかも安全柵の上……ってめっちゃ危ねぇええ!!!
 だがカガミは全く気にすることなく俺の体勢を今度は横に変え、……つまり俺は姫抱きにされてしまった訳ですが。

「かーがーみー?」
「お前呂律が回ってない」
「んー、……雑誌買ってきた、んだけどぉ~……」
「うん」
「俺、お前付いてきてくれるか、……なぁーって……考えてて~」
「うん。そうだな。金の面で心配してた事も知ってる」
「お前さ~……かね、持ってんのぉ~?」
「色々貸しにしてるところからちょこちょこ礼として金銭は貰ってる。旅行費用くらいは軽く出せるぜ」
「なぁ、付いてきて、くれ、る?」

 安全柵の上で全くぶれもせずしっかりと立つカガミに姫抱きにされた俺は問いかける。
 酔いのせいか、俺はその行為を全く怖いとも危険だとも感じなかった。むしろ酔いに任せながらぎゅーっとカガミの首に腕を回して抱きついて、へらへら笑っている自分がいる。カガミはそんな俺をヘテロクロミアの瞳で見つめながらやれやれと呆れたように笑った。

「当然付いていくに決まってるだろ」
「やったー! かがみ、すきっ!」
「うわっ」

 より一層俺はカガミに抱きつきながら、その勢いで相手の頬に自分の唇をちゅっと押し付ける。不意をつかれたカガミは目を丸くさせ、それが可笑しくて俺はけらけらと酔っ払い特有に声をあげながら笑っていた。
 安全柵の上をカガミが歩く。
 空を見上げれば今日は晴天。星が見える良い夜。俺は月を指差して、「綺麗綺麗」とかなんか変なことを言っていたような気がする。

「旅行が終わったらもうちょっと報酬吊り上げよっかなー」
「ぎゃはははは! 俺小金持ちって判明したから~、ちょっとじゃそっとじゃー、驚かないですぅー……!」
「次の報酬としてはとりあえずキスは唇限定にしとくか。なんて安い報酬で動いてんだろ、俺」
「えー、なんかいったー? かがみー」
「酔っ払いのお前襲ってもつまんねーって思って」
「ぎゃー! へんたいー!」

 夜は過ぎていく。
 酒気帯びた俺の行動はますますエスカレートしていくけど、カガミはそれでも安全柵の上から降りようとしない。見事なバランス感覚だなぁとか朧な意識で思った。

「ホント、何か理由を付けないとお前駄目っぽそうだから」
「ほえ?」
「こっち事。気にすんな」

 ゆっくりと、ゆっくりと。
 実は安全柵を歩いていると見せかけて、浮いていた事に気付く事もなく、その夜は俺の酔いが醒めるまで誰も居ないビルの屋上で二人過ごしていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / ジル / 男 / 32歳 / 珈琲亭・亭主,人形師】
【共有化NPC / 下闇・朔 (しもくら・さく) / 女 / 17歳 / ただの(?)女子高生.珈琲亭「アンバー」のアルバイト】
【共有化NPC / ゆつ / 女 / ?? / 日本人形】
【共有化NPC / サマエル・グロツキー / 男 / 40歳 / 開業医】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、あの後のお話という事で今回はちょっと最後が甘く。
 ラストをお任せして貰えたのでほんのり甘く(笑)

 ちゃんとほっぺにキスしてもらえたのでカガミは幸せものですね。――はっ、酔っ払っているので忘れられてたらどうしましょう……!

 ではでは、次のお話へとまた旅立ちです。

カテゴリー: 01工藤勇太, 【珈琲亭】Amber, 蒼木裕WR(勇太編) |

【珈琲亭】Amber・2

「――、と言うのがスキャニング・ドールもとい走査型人形の説明になる」
「……人形自体は素晴らしいですね」
「…………ああ」
「本当に凄く欲しいんですけど……! でも俺――金がない!!」

 俺はがくりと肩を垂らし、机の上に頭を伏した。
 あの後、俺は【珈琲亭】Amberではなく、スキャニング・ドールの説明を受けるために更にカガミと共に地下二階、人形制作場へと案内された。やはり人形の話はかなり貴重なもので、説明を聞いた今となってはスキャニング・ドールがどれほど役に立つか理解する事が出来る。逆に悪用された場合、どれだけ危ないものかどうかも分かった。そりゃそう簡単に「欲しいから作ってください」って言われても作れるわけが無いし、値段も張るというもの。
 でも数万という値段は大人だったら楽に届きそうで、若干自分が今金のない学生である事を悔しく思った。

「で、実は殆ど説明をしてたのはマスタじゃなくってあたしなんだけど~、勇太君はどうするぅ? いっちばん安いヤツなら後払いでもいいのよ♪」
「でも、俺人形持ってても今回の件以外で使うか分からないんで、それだと人形が可哀想なんで出来れば走査依頼をお願いしてもいいですか?」
「……事情が事情だし、カガミの紹介人だしな……構わない」
「本当ですか!? 有難うございます!」
「でもその為にはもう少し個人的な事を聞くことになるが……」
「そこはもちろん分かってます」
「え、マスタ! 勇太君のあれやこれやを根掘り葉掘り聞いちゃってオッケって事!? きゃー! 何聞こうかなー、まずは女性のタイプでしょー。それから、あ! 年齢を聞いてないからそれを聞いてー」
「……」
「はぁい、はいはい。冗談ですってば、マスタ」

 朔さんは俺の方に向いてマシンガントークを繰り広げようとしたが、そこはジルさんが無言の視線で制した。状況に慣れているのだろう。朔さんも引き際は凄く良かった。
 本当は今後も研究所の人間が関わってくるかもしれない可能性を考えるとスキャニング・ドール(走査型人形)の製作依頼をするのが一番正しい気もしたけれど、今の俺に最低でも二万は辛い。

「言いたくない事があるなら言わなくてもいい。訳有りの客だと言う事はカガミが傍にいる時点で認識済みだ」
「カガミ君はあたし達にとって歩く標識みたいだもんね! あ、ジュースのおかわりい・か・が?」
「あ、朔。俺も上に行く」
「カガミ?」
「勇太もその方が話しやすいだろ。大丈夫、お前が拒絶さえしなければ俺はこの現実世界でも思考を繋げていられるから」
「そっか……呼べば来る?」
「お前が、そう願うだけで」

 言いつつカガミが立ち上がり、朔さんと一緒に上の喫茶店へと戻っていった。その最中二人は――というより朔さんの方が勢い良くカガミに喋り掛け、カガミは時折相槌を打つような形で言葉を交わす。
 やがて仲の良さそうな二人に更に藪医者と呼ばれていた男の声が加わる。流石に何を話しているかまでは分からなくなっていたけど、朔さんがまたセクハラ的な行為を受けた事は何となく叫びっぽい声で察した。

『あれはむししてよい。――さあ、勇太殿の「さがしもの」……はなしてみせよ』

 机を挟み、対面して座っているのはジルさん。
 彼の前で俺の方を向きながら机の上に座っているのは自意識を持つ珍しい少女型日本人形兼走査人形、ゆつさん。
 そんな彼女に促され、俺は今までの事を出来るだけ簡潔に話す事にした。その途中一回だけ朔さんがジュースのおかわりを持ってきてくれたので素直に頂く事にする。
 さて話だけど、ジルさん達にまで研究所の人間が関わるのは嫌だったから、本当に最低限の事しか話さなかった。彼らの能力を信用していないわけじゃないけど、害は少ない方が良いに決まっている。

 俺は自分に超能力がある事。
 それからある事件で自分がミラーとフィギュアの二人と取引した事、そしてその際に『自分の母親の記憶』を取引材料に使ったらしい事、そのせいで母親の事を思い出せず精神病院に入院している母親が『誰』だったのか全く分からなかった事を話した。
 二人は俺が喋っている間決して口を挟まず、俺がどう説明しようか詰まっていても「ゆっくりで構わない」とだけ言ってくれた事が嬉しかった。
 大体の話を終えたところで、ジルさんが立ち上がりなにやら作業場にある棚の中から一冊の本を取り出す。それから本付属の折り畳まれていた紙を引っ張り出し、今自分達が対面している机の上に広げた。
 それは『日本地図』だった。そして本の方を差し出され見てみればそれは詳細版の地図で、それを見てもさっぱり分からなかった。

「まずは記憶を巡る」
「巡るって、えっと、どういう事をすればいいんでしょうか?」
『カガミ殿はおそらくすべてしっとる。じゃが、なにも勇太殿にいうてこぬということはじりきでさがすことが勇太殿にあたえられた「しれん」。じっさいといかけておったしの』
「……そっか。じゃあやっぱり俺が自分で思い出すようにしなきゃ駄目って事か」
「その為に情報を絞る。なんでもいい。ミラーとフィギュアの二人と取引した後、母親に関して何か引っかかった事があれば口にして欲しい」
「あの後だから、病院の一件しかないけど……」

 思い出せ。
 俺は貰った母親の定期検診の紙を取り出し何か変わった点はないか探してみる。だがそこには数字と医師からの幾つかの母親の健康状態についての説明文が載っているだけで『過去』に繋がりそうなものはなかった。
 ならば出逢った時の状態を思い出そう。看護師に寄り添われていた母。薄く笑みを浮かべていた女性の姿形、服装、持ち物……なんでもいい。変わったものがあの人の傍に無かったか自分で自分の記憶の棚を開くイメージで俺は記憶を巻き戻した。

「あ……そういえばさっき病院で母の持ち物として見た物の中に『高千穂神社』って名のお守りがあったっけ。でもお守りだろ……他の人が渡した可能性があるし、何も関係無さそ――」
『じる殿、かのうせいがでたのう』
「……本を」
「あ、はい!」

 俺は本をジルさんに手渡すと彼は素早くページを捲り始め、やがて数回往復したかと思うとあるページを開き、俺の方へと向けて机の上に置いてくれた。

「高千穂といえば九州にある町の名。ここに『高千穂神社』がある」
「あ、本当だ。え、でもなんで九州? 入院してたけど、あのお守りは入院する前に買ったのか。それとも見舞い客の誰かに貰った? ええ、でも何か関係あんのー!?」
「ここは日本神話が多い地域だ」
「日本神話、ですか?」
『かみがみのでんせつが「くでん」で、いまもつたわっているきしょうのち……じゃったかの』

 ゆつさんが確認するようにジルさんの方を見て首を傾げる。
 ジルさんはそれを肯定するために頷いた。俺は広げられた日本地図を改めてみて、それから自分の今いる場所から目的地までの距離を計算し、唸り声を上げてしまう。どう考えても旅費が痛い。人形製作より金が掛かるのは明らかで、頭を少々抱え悩んでしまう。

「うーん……何回もテレポートしていけば金かけずにいけるかな。あ、でもカガミに頼んだら一発で……」
「いや、もし行くなら能力は使わない方が良い」
「え、どうしてですか?」
『きおくを巡るため、じゃからの。勇太殿がどううごくかまでは、わらわたちはかんしょうせぬ。しかし、ちからをつかえば、それは「ゆがみ」。わかることもわからぬまま、とおりすぎてしまうこともあるゆえ』
「……と、言う事だ」
『じる殿、もうすこぉししゃべってみてもよいとおもうぞ?』

 くすくすくすと少女型人形は笑う。
 実際人形制作の説明には朔さんが、今の走査関係にはゆつさんが喋っていることが多い。どちらかというとジルさんは行動で示すタイプなのかと思っていたから俺自身はそんなに気にしてなかったけど。
 しかしこうして教えて貰った情報にお守り。何か不思議な縁を感じずにはいられない。

「俺、此処に行ってみようと思います」
「そうか」
「あ! 今回のその、走査のえっと依頼料って幾らになりますか? 今持ち合わせがそんなに無くて銀行で下ろさなきゃいけないかも」
「いらん」
『じゃな』
「え? なんで?」
「カガミの情報の方が高い」
『カガミ殿はヒトでもツクリモノでもないお方。わらわたちがまよったときにそっとみちびいてくれることもあるゆえ、そのカガミ殿がつれてきた勇太殿からこのていどできんせんはようきゅうせぬ』
「っ! ……俺、カガミにお礼を言ってくる!! 有難う、ジルさんゆつさん!」

 優しげに諭してくれるゆつさんの言葉に俺は元気を取り戻すと椅子から立ち上がり、部屋を出てから一階上の喫茶店へと繋がる階段を上る。
 教えて貰った情報の土地がどのようにして母の記憶と繋がるのか今はまったく謎だが、何もしないよりかはマシだ。
 これから始まるのは記憶を巡る旅。

「カガミ! 俺、俺な! 今お前にいっぱいお礼を言いたい!」
「お礼はキス一回以外受け付けておりません」
「――無理ー!!」

 カウンター席に座り他の二人と談話していたカガミに「有難う」という感謝の気持ちを持って近付いたまではいいが、相手はにやにや笑いながら俺の言葉に対して無茶振りをしてきた。一気に顔を赤らめた俺は店中――いや、階下にいるであろうジルさん達にも聞こえるくらいの大声で拒否の言葉を叫んだ。

「場所は指定してねーぞ?」

 朔さんと藪医者さんが面白そうな顔で俺達を見る。
 むしろ朔さんは「何々、二人ってばそんな関係なの? え、お姉さんにちょっと教えてよー!」と興味津々だ。
 はてさて。悪戯を思いついた子供のようないやらしい笑みで俺を見るカガミの手に甘いカクテルが入ったグラスが握られている事に俺が気付くまで――あと何秒?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
【共有化NPC / ジル / 男 / 32歳 / 珈琲亭・亭主,人形師】
【共有化NPC / 下闇・朔 (しもくら・さく) / 女 / 17歳 / ただの(?)女子高生.珈琲亭「アンバー」のアルバイト】
【共有化NPC / ゆつ / 女 / ?? / 日本人形】
【共有化NPC / サマエル・グロツキー / 男 / 40歳 / 開業医】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、いつもお世話になっております。
 今回は走査依頼ということで、さくさくっとジルとゆつが軽いお仕事をさせて頂きました。九州地方への道が示されたわけですが、どう動くのか内心こっちもドキドキ楽しみにしつつ……!

 あ、ちなみにカガミはカクテル程度では酔いませんと裏情報をそっと(笑)

カテゴリー: 01工藤勇太, 【珈琲亭】Amber, 蒼木裕WR(勇太編) |

【珈琲亭】Amber

君に幸せを。
 貴方に笑顔を。
 自分は現実を。
 貴方には夢を。

 どうか、全ての<迷い子(まよいご)>達が歩むべき道を見つけられるように。

「カガミ、<切り札/カード>を失った彼が動くみたいだね」
「まあな」
「君の事だからあそこに行くんだろうね。『彼ら』によろしく言っておいてくれるかな」
「バレバレか」
「僕は情報屋だもの」
「スガタは来なくていい。俺一人で行ってくる」
「分かってる。二人の邪魔はしないよ」
「そういう意味じゃなくってな」
「ふふ、工藤さんと『彼ら』に宜しくね」

 それは彼が現実を突きつけられる前の案内人達の秘密の会話。
 カガミは青年の姿をしたままその場から姿を消す。木製の安楽椅子に座っていたフィギュアは不思議そうに三人の会話を聞きながら、手にしている<カード>を見てそっと笑った。

■■■■■

 それは例の事件で入院し、無事退院してから数日後の出来事だった。
 病院から電話が掛かってきたのは良い。だがその病院の名前に聞き覚えがなかった。てっきり自分を治療してくれた病院だと思っていたのだが、その内容がまた可笑しい。

「え、た、確かに俺は工藤 勇太ですけど……はぁ、母の定期健診の結果、ですか? え……えっと」

 何故だろう。
 可笑しい。
 俺には『母』などいないはずなのに。
 訳が分からないままそれでも電話の向こう側の受付の人は自分の事を知っているようで、自分の容姿や年齢などを当ててきた。さすがに不信に思ったが、「とりあえず行かせて頂きますね」と引き攣った笑顔を浮かべながらその場は収める事にした。電話を切った後、俺は混乱を起こす。
 『母親』って誰の事だ?
 自分には母親はいないはずだ。
 それでも電話の人物が嘘を付いているようには感じられなかったので俺は服を着替え、一応病院という事で安めで申し訳ないがそれなりの花を用意しつつ、問題の『精神病院』に向かう事にした。
 だが。

―― え、……? ていうかマジで誰?

 それが看護師に寄り添われた『母親』を見た感想だった。
 「今日は息子さんが来てくれましたよ」と笑う看護師に、薄く微笑む病院服を来た女性。確かに彼女の苗字は「工藤」だが、それが母親であるとは俄かに信じがたかった。花束を渡し、適当に話を合わせつつ自分はなるべく笑顔を作りながら『母親』と対面する。医者や看護師までグルになって俺を騙しているなんて思えない。テレパシーを使って感応してみても、彼らは決して嘘を付いてなどいなかった。
 じゃあ、何故か。
 定期検査の結果を印刷した紙を受け取り、見覚えのあるような感覚に苛まれる。だけどあの人が母親だと言われても実感が湧かなかった。

 俺の中の母親。
 それはあの研究所に連れて行った女の人。
 その後は叔父に助けられて今まで生きてきた……そうだろう? でも――。

―― 思い出せない。何でだ。なんで欠片も思い出せない。

 だってあんなにも看護師さんは「見舞いに来てくれる熱心な息子さんで羨ましい」とか「やあ、勇太君。元気だったかい?」と話しかけてくれる医師が居て、他にもすれ違った病院の人に声を掛けられて……。

 な ん で 『母 親』 の 記 憶 が な い ?

 焦りが生じ、俺は必死に記憶を手繰る。
 高校から中学へ、中学から小学校へ。最終的には研究所の恐ろしい思い出まで。
 だけど分からない。俺は病院の外にあるベンチに座り、頭を抱え込みながら真剣に記憶を巡った。だけどそのどこにも『あの人』がいない。途切れた糸――研究所で手を離した女性……それだけしか、分からない。

 不意に自分の隣に誰かが腰を掛ける。
 他にもいっぱいベンチはあったから「わざわざ人が座ってる場所に来るなんて誰だ?」と顔を持ち上げればそこには見知った顔。黒い短髪に黒と蒼のヘテロクロミアを持つ青年、カガミだった。今日の格好は少し洒落ていて、白シャツに黒デザインベスト、それから黒のスラックスに黒のブーツとちょっとナンパ男風。
 俺はと言えば訳も分からないまま出てきたから、タンクトップに黒と青のチェック半袖パーカーを羽織って、下もジーンズと運動靴というラフな格好だと言うのに。

「カガミ、一体どうしたんだ?」
「そろそろお前が俺を必要とするだろうと思って」
「はは……なんだ、ソレ」
「母親との対面はどうだった」
「――っ、お前何を知ってるんだ!?」
「今日は暇だろ。ちょっと付いて来い」
「え、何、カ――」

 カガミが立ち上がりざま俺の腕を急に引っ張り、その瞬間空間が歪むのを感じる。
 テレポート、転移。そう呼ばれるものの特有の感覚に俺はぞくっと肌が粟立つ。自分がテレポートする時は己で調節するからいいんだけど、人に強制的に連れて行かれるのはやっぱり違和感があるのだ。
 とんっとカガミが足を付ける。俺は咄嗟の事に反応が遅れ前によろけるが、カガミが首根っこを掴み、後ろに引いてくれたおかげで何とか無事地面に足を付けることに成功した。
 周囲を見ればそこは 寂れた雑居ビルが建ち並ぶ一画。
 昼でも薄暗い路地裏に瞬く街灯。上を見れば階段と地上が見えることから今立っている場所がその階段の下である事が分かった。
 そして目の前には一つの看板。

   ―― 【珈琲亭】Amber ――

「何ここカガミさん……怪しすぎなんですけど……高校生が入ってもいいのか?」
「何故急にさん付けになんだよ。此処はちょっと外装は寂れてるっぽいけど、中は普通の喫茶店だっつーの。まあ、そこにいる『奴ら』は変り種だけどな」
「わぁ、やっぱり! 何もないなんてありえないと思ったんだよな!」
「勇太、とりあえず中に入るぞ」
「ぎゃー! 置いていかないでー!」

 カラン、と喫茶店のベルが鳴り、カガミが特に怯える事もなく中に入っていく。俺は慌ててその背中を追いかけ、若干びくびくとしつつお邪魔する事にした。

「あら、いらっしゃぁい。マスタ、お客さんよ! あ、ついでにカガミ君青年バージョンだぁ! 相変わらずイケメンねっ」
「…………」
「ったく! マスタってば挨拶くらいしなさいよ! ふふ、無愛想な店主でごめんなさぁい。あ、後ろの子は初見さんよね。ちなみにメニューはこ、ち、ら♪ でも大抵のモノは作れちゃうからメニューに載って無くても気軽に相談オッケーよ!」
「……それで、カガミ。お前さんは飲みに来たのか。食べに来たのか。子供姿じゃないのも珍しいが……」
「HAHAHA、それとも人付きって事は例の人形の作製依頼かねぇ?」
「ちょっと藪医者! あたしのセリフ取らないでよ! ……ねー、マスタ。こいつ入店禁止にしようよ~、ね、ね!」
「はっはっは、cuteな顔が台無しだぜぇ、お嬢ちゃん。藪医者なんかじゃなくってniceな腕前を持つ俺様を入店禁止にしたら、お嬢ちゃんの身体改造してやんないよぉ?」
「っ~! いらないわよ、バカっ!」
「――お前達、少し口を塞げ。二人が喋れない」

 元気一杯の声で迎えてくれたのは女子高校生らしきくるくるパーマが良く似合うポロシャツにミニスカを履いた女の子。
 カウンターにて食器の手入れをしているのが前髪を後ろに撫で付けた灰髪のウルフカットに右に梵字入りの眼帯を付けた茶の瞳を持つ三十代後半の店主。
 最後に常連客と見られるベリーショートの金髪碧眼を持つ四十代ほどの男は、店員である女の子の台詞を奪い軽快な笑い声を上げた。

 店主に諭されやっと二人は声を止める。
 やっと自分に喋る順番が回ってきたとカガミは嘆息する。なるほど、今日のカガミの洒落た格好は此処に合わせての事かと今更ながら納得する。そして俺はと言うとカガミの言っていた『変り種』が彼らなのだと分かり、内心安堵していた。だって相手が人間っぽいから。少なくとも意思疎通が出来るという事が分かったから。
 だがその瞬間その耳に届いたのは――。

  『なんぞ、さがしものかえ?』

 カウンターの上に乗っている黒髪の美しい少女型日本人形が今まで伏せていた瞼を持ち上げ、意思を持った瞳で客に――っていうか俺に微笑んだ!?

「ひっ。俺、帰ります!」
「まあ、待てって」
「ぐえっ! カガミ、首、首絞まってる!」
「確かにゆつは初対面だとびっくりする奴ばっかだけどな、内面はそれなりに話が通じる奴なんだぞ」
「分かったから襟首離してー!」

 くすくすくすと少女の笑い声が響く。
 それは女子高生のものと人形のもの。俺はぱっと手が離されると詰まっていた息を吐き出しながらほうっと肩を落した。

「ジル、朔、サマエル。それにゆつ。他の皆からは宜しくって伝言」
「……そうか」
「マスタ! そういう時は有難うとか何か反応しなさいってばぁ!」
「とりあえずカガミ、お前は飲むのか?」
「カクテル、と言いたいとこだが勇太がいるからオレンジジュース。料金はいつもの情報代で良いだろ」
「安いな……そこのテーブルに座って待ってろ」
「で? で? で? 今日のご用事なにかな、なにかな~? カガミ君ってば久しぶりだから朔歓迎しちゃう!」
「お嬢ちゃんにsexyな接待は期待出来ないけどな、HAHAHAHAHA!」
「うっさい、セクハラ藪医者!!」

 案内されたのはカウンター近くのテーブル席。
 カガミと俺は素直にそこに座ると朔という女の子が持ってきてくれた水を飲む。その間も常連客というかずっと藪医者と呼ばれている人物と朔は言い争いを続けていた。俺は一体なんでこの場所にいるんだろうか。目的が分からずとりあえずちょこんっと大人しく座っていると、カガミが俺の頬に手を伸ばした。

「勇太、お前『母親』について知りたいか?」
「それだ! そうだよ。今日俺なんでよく分からないことになってんの!? 行き成り精神病院に呼び出されて、はいこの人が俺の母親ですよって言われてさっぱりなんだけど!」
「お前はこの間の事件を覚えているな。薬物投薬によって生み出された能力者が脅迫概念によってお前を襲った事件だ」
「憶えてるに決まってるだろ。そのせいで病院で入院までしたんだから」
「その時、お前はミラーとフィギュアと取引をした事は?」
「憶えてるけど? で、情報を貰ったんだよな。あー……本当、ミラーに嫌われていなくて良かった良かった」
「その時使った情報の取引材料を憶えているか?」
「取引材料? 憶えてるに決まってるだろ。それは――……」

 ふと、俺は動きが止まる。
 あの時二人に渡した情報。
 キンッと耳鳴りがし、俺は反射的に自分の耳を両手で塞ぐ。それはやがて頭痛となり俺を襲う。痛い。痛い。痛い。自分の中身を探られているような感覚、浸食されているのに、壁を作られて思い出さぬよう封印されて――。
 カガミが頬に触れていた手を下げる。
 俺は冷静な表情を見せるカガミをやっとの思いで見やり、そして、くひっと少しだけ喉が引き攣った音を鳴らす。
 ああああああああああ。
 そうか。
 そうだったのか。

「お前は『愛しい母親』の記憶を取引材料……つまり<切り札>として差し出したんだ」
「それを言われても思い出せない……」
「<切り札>は<最強のカード>となり、今ミラーが保持している。取引材料として渡したそれはお前の一番強いカードだった。だからフィギュアもミラーもお前の為に身を呈したんだよ」
「取り返す事は?」
「出来ない。お前は取引をした。二人は了承した――<カード>となった記憶を二人から取り戻す事は違反行為だ」
「は、はは。そりゃあ、そうだよな」
「取り戻す事は出来ない。だが、お前自身が動く事は可能だ。その選択の為に俺はここに居る。――勇太、お前はどうしたい?」

 どうしたい?
 カガミは問う。
 俺は両手をそっと下ろし、そして悲しく笑った。
 その時丁度自分達の目の前にオレンジジュースが入ったグラスが置かれる。ウェイトレスの女の子かと思ったが、それが意外にもあの日本人形を腕に抱いた店主だった。
 いつの間にか騒いでいた声も静かになっていた事に今更ながら気付く。
 梵字入り眼帯を右目に付けた店主――ジルと呼ばれていた男性は静かに唇を開いた。

「失せ物探しなら私が引き受けても良い」

 その声は淡々としたもので、あまり抑揚はない。だが不愉快な響きではなかった。

『わらわのように意思はないが、走査型人形をこやつはつくることもかのうじゃ。よこもじではなんというたかの?』
「スキャニング・ドールだ」

 少女型日本人形は美しい表情を綻ばせ、まるで幼女のように滑らかに首を傾げた。ゆつ、と呼ばれたその人形は己を抱える男を見上げると彼はこれまた淡々と答える。

「この喫茶の他に失せ物探しと人形制作が私がしている仕事の一つだ。……カガミが連れて来たならこれも何かの縁だろう。人形の話だけでも聞いていくと良い」
「勇太、もう一回聞く。『お前』はどうしたい?」

 カガミが俺を視線で射抜く。
 ジルはそっと目を伏せて返事を待つ。
 ゆつは既に答えを知っているばかりに微笑んでいた。
 そう、答えなど。

「決まってる。母親の記憶を取り戻す事が出来ないなら、俺が自分で思い出してやるッ」

 その瞬間、カガミは「やっぱりな」と口元に拳をあて、ぷっと息を吹いて笑った。

 勇太、お前には幸せを。
 母親、貴女には笑顔を。
 意志を強く持ったまま現実を行く<愛しい迷い子>にはこの両手を。
 精神薄弱のまま長い間現実を漂う<忘れられた迷い子>には幻想を。

 どうか、全ての<迷い子(まよいご)>達が歩むべき道を見つけられるように。
 そう考えながらカガミは静かに祈る。
 神を崇めない彼はただ――未来だけを『視て』いるように見えた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC/ スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
【共有化NPC / ジル / 男 / 32歳 / 珈琲亭・亭主,人形師】
【共有化NPC / 下闇・朔 (しもくら・さく) / 女 / 17歳 / ただの(?)女子高生.珈琲亭「アンバー」のアルバイト】
【共有化NPC / ゆつ / 女 / ?? / 日本人形】
【共有化NPC / サマエル・グロツキー / 男 / 40歳 / 開業医】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、新しい話の始まりですね。
 今回は一部は本当に少しだけですが異界のNPC勢ぞろいという事実にびっくりしてみたり(笑)

 さてプレイングの最後でゆつ様を利用した行動描写がありましたが、今回はNPC様の性質上その行動は行なえません。その点だけはご了承下さい。

 ジルより何かしら話を聞くか、また別の場所に進むかはご自由です。
 もし「スキャニング・ドール(走査型人形)」について気になるのでしたら、ゲーノベ説明ページに詳しく載っておりますので目を通してみてくださいませ♪

 どうか、工藤様が良い道を歩めますように。

カテゴリー: 01工藤勇太, 【珈琲亭】Amber, 蒼木裕WR(勇太編) |

ある一夜の夢 ―彼と夫婦の三人の場合

夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。

 でなければこんな変化――どうしたらいい!?

■■■■■

「ふぁあ、今日もいっぱい遊んだにゃー……」

 そう言いながら高校生男子である工藤 勇太(くどう ゆうた)は大きなあくびを漏らしながら伸びをする。
 その姿は鏡に映り、彼の今の姿を如実に映し出す。それは五歳児程度の身体に猫耳猫尻尾を持った子供――今のところ、この夢の世界だけで具現化する事が出来るチビ猫獣人の姿である。
 彼はその尻尾を気分良く揺らしながらてててっと二足歩行で一緒に遊んでいた十二歳ほどの蒼と黒のヘテロクロミアの瞳を持つ少年――カガミへと身体ごと抱きついた。そしてそのままごろごろと顔を押し付けて心の底から甘える。
 普段は高校生男子だが、この姿になると彼は精神年齢すらも五歳児程度まで下がり、常に甘えたい盛りになるので見ている分には可愛らしい子供であった。

「お前今日も良く食って遊んで食って遊んで……マジでガキ化してるな」
「んにゃ~♪ 俺様はこの姿だとすっごく楽にゃんだにゃん」
「工藤さんはこの姿だとリラックスしまくりですもんね」
「にゃ! スガタ、ほっぺ突いちゃいやにゃ!」

 カガミと対になるような容姿を持つ少年、スガタに食らわすのは見事な猫パンチ。
 ただし本気で拒絶している訳ではないので、ていていっと動く手も愛玩対象になるだけ。洋テーブルのイスに腰を下ろしたカガミに彼は両手を持ち上げ抱擁をねだる。カガミもそろそろこの姿での勇太の対応に慣れて来たのかひょいっとその小柄な身体を抱き上げると背中をぽんぽんと撫でながらあやしに掛かった。
 そうなれば子供の身体というものは正直なもので……。

「んにゃ……うとうとしてきたにゃ……」
「此処で寝るのかよ」
「カガミ、その子供を寝かせるなら部屋を貸すけど?」
「あー、そうだな。連れて行こうかな」
「んー……」
「――あら、でもちょっと待ってミラー。お客さんが来るみたいよ」
「フィギュア?」
「……あら、あらあらあら。それも素敵なお客さんだわ。ミラー、そろそろその扉の前まで来るみたい。お出迎えしてあげなきゃ」

 勇太を抱き上げたカガミに部屋を勧めたのは家の持ち主の一人――黒と緑のヘテロクロミアを持つ十五歳程の少年、ミラー。
 そしてそんな彼に来客の知らせを告げたのは長い黒髪を持ち、黒と灰色のヘテロクロミアを有する足の悪い少女、フィギュア。
 彼女の言葉に導かれ、勇太以外の皆は意識を『外』へと張る。『目』の良い彼女は既にそこにいる来客に心を動かされ凄く楽しそうに微笑を浮かべた。
 そして――。

「ヴィル、ここ、『鏡・注意』って書いてあるわ。何かしら、これ」

―― コンコン。

「さあ……今の私には何も分からないよ。すみませーん、誰かいらっしゃいますかー!」

 扉を叩く音とこちらを伺うような声に皆顔を見合わせると、客人を出迎える為にミラーは足を運んだ。

■■■■■

 時は少し戻り。
 ある一組の夫婦――ヴィルヘルム・ハスロと弥生・ハスロ(やよい はすろ)はある暗闇の中に居た。其処はまさしく暗黒で、自分達二人以外は何もない空間であったが……それよりも夫婦には衝撃的な事実に気付いた。

「貴方はヴィル、よね?」
「弥生、だよね。一体その姿はどうして……」
「嘘っ! やだっ、ヴィルってばその姿どうしたの!?」
「え、私もかい!?」

 その闇の中では互いに互いの姿を認識することは可能であった。
 だが、それ以外のものは一切『無』であり、『有』という言葉は存在していない。だからこそ夫婦は「これは夢だ」と判断する。何故なら自分達の姿が今有り得ない状態に陥っているからだ。鏡の無い場所では自分の姿を視認する事は不可能だが、伴侶が互いに見つめ合って驚きあう事で『自分』の身にも何かが起こっている事を感じ取る事が可能だった。
 そしてそれに呼応する様に聞こえてくる笑い声。
 見えるのは――真っ暗な空間に一件だけ建つアンティーク調の一軒家。

「ヴィル、あんなものさっきまであった?」
「いや、無かったよ」
「そうよね。……じゃあどうして急に現れたのかしら」
「行ってみるかい?」
「そうね、ここで二人で居ても仕方が無いし。案外妖精とかの悪戯だったりして」
「それにしては随分可愛らしい悪戯だね」
「ふふ」

 二人は向かう、その家へ。
 夫婦らしく手を繋ぎながら――どんな時でも相手が伴侶ならば手を離す理由など逆にないというかのように。
 そして楽しげな会話の音を聞きながら二人は玄関の前へと立った。その扉の傍には一枚の張り紙。

「ヴィル、ここ、『鏡・注意』って書いてあるわ。何かしら、これ」

 コンコン。
 その声を聞きながらヴィルヘルムが扉を二度叩く。

「さあ……今の私には何も分からないよ。すみませーん、誰かいらっしゃいますかー!」

 やがて開かれる扉、中から現れたのは一人の少年。
 黒と緑のヘテロクロミアが二人を見つめ微笑みかける。それは丁度夫婦の瞳の色を一人が所有しているかのような印象を与えつつ、人好きされそうな笑顔を浮かべながら彼は言った。

「こんにちは、<迷い子(まよいご)>。ご用はなんでしょう?」
「まよい、……え?」
「ヴィル、ちゃんと挨拶しなきゃ。――こんにちは、私達ちょっと道……かしら。それを訊ねたくて此処に来たの」
「そう。あとこの不思議な場所について知りたく――っ!?」

 少年の向こう側、つまり室内を見やれば壁と言う壁が全て鏡張りで構成されており思わずヴィルヘルムと弥生は目を見張る。
 そしてその部屋の中央に一人の少女が安楽イスに座っており、優雅に紅茶だと思われる飲み物を啜っていた。その傍には同じようにテーブルイスに座っている双子らしい少年達の姿が確認出来た。
 黒い髪の毛を持つ少女は来客である夫婦を見ると少しだけ嬉しそうに微笑み、カップをソーサーの上へ置き、それから空いた片手を持ち上げる。

「初めまして、<迷い子>。己の困惑を取り除きたいなら私の元へいらっしゃい」

 招く手。
 甘く誘惑する声は己の肉体の変化について知られている事を告げていた。此処は一体どこで、何故このような変化を起こしているのか。
 何を知るにも情報が必要だ。そう思い、ハスロ夫婦は恐る恐る中に入る事にした。

■■■■■

 視線を感じる。

 勇太はひくりと伏せていた瞼を震わせ、己を抱く腕を一層抱きしめる。
 だが視線はまだまだ消えない。むしろ増えたような気がした。
 勇太はひくひくっと瞼を痙攣させるかのように動かし、やがて重いその部分をゆっくりと押し上げた。まだ自分を抱く腕は消えていない。それだけが彼を安心させていた――逆を言えば油断させていたとも言うが。

「……にゃんだにゃぁ……」
「んー……この子猫ちゃん、どこかで見たことがあるわ」
「確かに。この子は誰かに似てるね」
「……あれ……? 勇太君よね……?」

 『勇太』。
 その言葉にチビ猫獣人である彼はぴくっと耳を動かし反応する。だが未だ眠気の方が勝っており、彼は大きな欠伸をして再び眠りにつこうとした。だがその瞼の裏で今見たものを写し、反芻させる。そして記憶の隅に引っ掛かりを覚えると頑張ってその目を開いた。

―― なんだか見た事あるような顔だにゃぁ……――って、ハスロさん達にゃー!?

 バチッ! とそれはもう綺麗な擬音が付く勢いで勇太の瞼は開き、眠気も吹っ飛んだ。

―― にゃ!? にゃんでー!? にゃんで二人がここに!?

「あ、起こしちゃったみたいだね。すまない」
「いや、別に良いよ。コイツ寝てばっかりだし。――ほれ、そろそろ起きろ」
「にゃ、にゃにゃ!?」
「ところで貴方、勇太君、よね?」
「にゃー!!! ち、違うにゃー! 勇太じゃないにゃー!」
「あら人違い?」
「そ、そうにゃ! 勇太なんてヤツ、俺様知らにゃいにゃー!」
「ねえ、カガミ。工藤さんを寝かせる部屋のベッドメイキングが終わっ――」
「にゃぁああ!! スガター!!」
「え、何。今、僕何か悪い事した?」

 チビ猫獣人である勇太はまさか夢の世界で知人に会うだなんて思っておらず、しかもカガミに甘えまくりの状態の姿を見られたことにより自分の正体を誤魔化しに掛かる。
 だが、それを無残にも一言で散らしてしまうスガタの呼び声。彼は一切悪くない。そう悪くないはずだ。
 そしてスガタが口にしてしまった工藤、という言葉と勇太には直結しない。……知人でさえなければ。
 だからこそまだ取り繕えるだろうと信じて勇太は心の中でだらだらと汗を流しながら、でも表面上は可愛い子猫ちゃんぶって「え、えへ?」なんて小首を傾げ愛らしく笑ってみるが……視線が、痛い。
 誤魔化しに掛かった勇太に対して弥生がじーっとガン見を始めたからだ。
 ヴィルヘルムの方は「勇太さんに似ている可愛らしい子だな」とその程度しか思っていなかったが、弥生はそうではない。

 じぃー。

「え、えへ」

 じぃー。

「……え……えへへ」

 そして沈黙の戦いが数秒続いて。

「……に゛ゃー!! 耐えられないにゃー!! そうにゃ! 俺様は工藤 勇太にゃー!」
「ほら、ヴィル。やっぱり勇太君よ」
「弥生、今ごり押ししなかったかい?」
「気のせいよ、ふふっ」
「はぁ、はぁ……も、もう緊張で心臓ばくばくにゃ……」

 にらめっこ状態に耐えられなくなった勇太はとうとう観念し、開き直りにかかる。
 一方、見事工藤 勇太だと見抜き、口を割らせた弥生はそれはもう気分爽快という表情で夫へと微笑んだ。ヴィルヘルムもまたチビ猫獣人本人が「工藤 勇太」である事を認めたのだから、対応を知人に対するものへと変える事にした。
 だが、彼は屋敷内を見渡し、クラクラと目が回りそうになり一瞬自分の思考が白く霞むのを感じる。
 それは確かに鏡張りの部屋という異質な光景も含んでの事だったがそれよりも何よりも――今起きている自分の変化が信じられなくて。

「もうー、勇太君ってば小さくて可愛いわー! えい、撫でちゃえ!」
「わわっ」
「ヴィルも撫でてみたらどう? すっごく髪の毛が柔らかいの。やっぱり子供だからかしら」
「そうかい? じゃあ勇太さんが嫌じゃなければ撫でさせてもらいたいな」
「い、いいけどにゃ。いいけど……」
「嫌なら触らないよ」
「ち、違うにゃ! ――カガミ! 俺を下ろして欲しいにゃ!」
「あー、俺に抱かれてるのが恥ずかしいわけだ。ふーん」
「っ~……!! 言うにゃ!」

 弥生の手が勇太の頭に触れ、髪と共にそこに生えている猫耳も一緒に撫でまくる。
 猫特有の軟骨が入った耳はひくひくと動き、無意識のうちに後ろに逃げようとするがそこは人間の手の方が早くあっさりと捕まってしまう。
 更に弥生はヴィルヘルムに声を掛け一緒に撫でようとするが、勇太はやっと今の自分の状態がどう言ったものであるか思い出すとかぁっと顔を赤らめ、カガミの腕の中から下りだす。にやにやと明らかにからかいの意思が入って見えるカガミのその笑顔が正直憎らしいと勇太はぎろっと睨み返す。

 しかし今はそっちよりもこっち。
 ハスロ夫婦の『変化』の方が勇太の興味をそそっており、彼は二人の前まで寄るとこてんっと首を左に倒し、猫手を口元に当てながら問いかけた。

「で、にゃんで二人も猫獣人に変化してるのにゃ?」

■■■■■

「さあ、お茶をどうぞ」

 そう言ってミラーはテーブルイスに座った新たな客人達にカップを差し出す。
 ヴィルヘルムと弥生はそれを素直に受け取り中を覗き込むが……。

「空だわ」
「何も入っていないね」
「でも貴方達が願えば、そのカップには願いが具現化して自分好みの茶が湧くよ」
「じゃあ私はカモミールティーがいいわ。思い出のお茶なの」
「弥生が熱を出した時に私が淹れたものだったね。じゃあ私も同じものを」

 ぴくりと弥生が黒猫耳を動かす。
 それは彼女の頭部に生えた耳。そう、弥生とヴィルヘルムもまた己の髪の毛と全く同じ色の猫耳が生え、更に『若返り』という変化を起こしているのだ。
 ヴィルヘルムは二十歳ほどの青年へ、弥生は十五歳程の少女へと若返り、その頭部に猫耳と臀部に尻尾が生えている姿はなんだか微笑ましい。暗闇の中で互いに確認した時は一体何事かと思ったが、勇太がチビ猫獣人姿であることも手伝い、次第に自身の変化に順応していった。
 特に百六十三センチである弥生は若返った年齢の関係も有るのか、背丈が十センチほど低く夫との身長差が開き視界が新鮮に感じている。

 やがて弥生とヴィルヘルムがカップへと手を掛ければ、ミラーが告げたようにカップの底の方から液体が湧き出、とても安定感のある香りを放つカモミールティーがそこには存在していた。まるで魔法のよう、と少女姿の弥生はほうっと息を吐き出しほんの少しうっとりと目元を緩め、そんな若い妻の様子をヴィルヘルムは微笑ましげに見つめた。
 ちなみに結局カガミの膝元に収まった勇太の手には緑茶の入った湯のみが握られており、彼は熱いそれを舌が火傷しない程度まで冷ましてからゆっくり飲んでいた。

「しかし弥生さんはいつもよりちっこくなって可愛いのにゃぁ!」
「まあ、ありがとう。可愛いって言われるとちょっと照れるけど嬉しいわね」
「ヴィルさんはちょっと若返った感じにゃけど背はでっかいままにゃー!」
「まあ、この年頃には身長自体は止まっていたからね。今より十歳くらい若いのかな」
「でもにゃんでそんにゃ姿になったにゃ?」
「それが分からないのよね」
「猫獣人になりたいって思ったとかじゃにゃいって事にゃ?」
「うーん……私も弥生もそういう願望は無いはずだけど……」

 きゃっきゃっと五歳児の精神になっている勇太は二人の変化の感想を口に出し、夫婦はそれに応えながらもカップに口付け、少し熱いそれを冷ましながら飲む。
 だがいつもより敏感になっているのか、熱に反応して舌がびくっと跳ねた。まさしく猫舌である。

「何か変わった事といえば二人で夜寝る前に自分達が子供だった頃の話をしていたくらいかな」
「そうね。色んな話をしたから……それで若返っちゃったのかしら。でもこれはこれで楽しいわ。勇太君も可愛いし、ヴィルの若い頃の姿を見ることが出来て眼福!」
「弥生の目がキラキラと輝いているし、私もこの状態に……まあ、最初はびっくりしたけれど不便はないね。――どうして猫耳と尻尾が付いているのかは理由が全く思いつかないけれど」
「本当よね。それだけはホントに分からないのよ」

 首を傾げながら若い姿の夫婦は理由もとい原因を探してみる。
 通りがかった猫の記憶が作用している? それともバラエティ番組の企画で見た猫耳少女のせい? ――だがそれのどれもがぴったりと原因というピースに当て嵌まるような気がしない。
 そんな風に夫婦が悩んでいると不意にフィギュアが口元に手を当ててくすくすと笑い出した。そんな少女の笑みが分からず、皆が彼女を見やる。注目が集まってしまった事に対してフィギュアはややしてから気付き、そしてその手をそっと膝元へと重ねて下ろした。

「影響ね」
「にゃにゃん?」
「今回訪れた貴方達夫婦には『工藤 勇太』という少年との繋がりがあった。彼にはチビ猫獣人になれる能力があり、貴方達二人はそんな彼の能力を感受していた可能性があるわ」
「にゃにゃ!? 俺が原因にゃ!?」
「ふふ、だからつい笑ってしまったの。あまりにも可愛い『影響』で」

 理由を口にする少女はまた片手を口に当ててくすくすと声を漏らし笑う。

「勇太の力を感受して、夢の中で影響させるなんて面白い事をするよな」
「工藤さんの力を感じ取って、この世界に反映させてしまうなんて面白い話ですよね」
「その耳も尻尾も」
「その若さも」

「「 全てが全て、貴方達の夢だけれど 」」

 スガタとカガミが声を重ね、言葉を吐く。
 その一音も外さない文章の流れに勇太は久しぶりに拍手を送る。ミラーとフィギュアは慣れているため特になんの反応も示さなかったが、ハスロ夫婦は初めて出逢ったこの少年二人の協調性に興味を抱く。
 お茶会が始まる前に全員自己紹介をしており、彼ら二人が「双子」ではなく「対の存在」である事を教えて貰った夫婦はその在り方に心を動かす。更に言えば勇太を除いた四人――スガタ、カガミ、ミラー、フィギュアが<迷い子(まよいご)>と呼ばれる人や物を導く「案内人」という存在である事も彼らの興味をそそる。

「此処はひと時の夢だけれどどうかゆっくりしていって頂戴ね。あたしは記憶に欠陥があるからあまりモノを覚えていられないけれど、こうして過ごす時間は確かにあたしの中で蓄積されていくものだから」
「フィギュアが忘れるなら僕が君の分まで記憶しよう、記録しよう。君が望むがままに、君が望む時に歪みなく愛しいと思う時間を渡すために――だからこそ歓迎するよ、猫獣人になった夫婦さん」

 柔らかく言葉を紡ぎ出し、フィギュアとミラーとが歓迎の意を示す。
 スガタはにこにこ、カガミはにやにやと夫婦の姿を見てからミラーの最後の言葉に同意するように頷いた。カガミの腕の中で勇太はぷはっとお茶を飲み干すと、ハスロ夫婦へとその子供特有の清らかかつ大きな瞳を向け、そして言った。

「弥生さんにヴィルさん、大丈夫にゃ! 皆いい人達にゃ!」
「まあ、僕はフィギュアに害がなければそれでいいから」
「い……良い人達にゃ」
「君は過去に前科持ちだから、ね?」
「にゃー! ミラーはちょっとねちっこいにゃー!」

 過去にすこーし事情があってフィギュアに間接的とはいえ危害を与えてしまった勇太はぞっと背筋に悪寒を走らせ、ぶわっと尻尾を膨らませる。
 なんとなく二人の間に対立関係があると察したハスロ夫婦は、互いに顔を見合わせ、そして次の瞬間にはぷっと息を吹き出してしまう。それを隠そうと二人は顔を背けて隠すが時は既に遅し。
 やがて弥生は周囲の鏡張りの家を見渡してからこほんっと咳払いをする。
 最初はその鏡張りの光景に驚きはしたけれど、すぐに遊園地みたいで面白そう! と目を輝かせたのもついさっきの話。

「私も出来れば皆と楽しく過ごしたいわ。良ければもっとお話をさせて貰ってもいいかしら」
「弥生と同様に私も皆さんとお話したいかな。特に「案内人」の役割とか気になります。一体どんな経験を持っていらっしゃるのか……良ければ聞かせて頂けませんか?」

 夫婦は深刻な悩みがあってこの肉体変化が起こったのではないと知らされると今度は前向きに会話を始める。
 勇太が居て、初めて出逢った変わり者の「案内人」達がいて……もっともっと知りたいと思った。それが彼らがここにいる根底の理由。

「心行くまで会話を楽しんでくれると僕らも嬉しいよ」
「どうか貴方達の心にあたし達の存在が残りますように」

 一軒屋の住人二人の言葉に皆一斉に笑みを浮かべた。

■■■■■

「勇太寝ちゃったな」
「さっきも寝かかってましたからね」
「二人も寝たか?」
「寝てる寝てる」

 そぉっとスガタとカガミが一室を開き、隙間から中を覗き見る。
 そこは眠気に襲われていた勇太の為にスガタが用意した客室の一つで、其処には今勇太を真ん中に置いて左側にヴィルヘルム、右側に弥生がキングサイズのベッドに横たわり定期的な寝息を立てていた。
 あの後沢山喋り、笑いあい、そしてじゃれあった三人はやがて疲れ、眠気を訴え始めた。特に弥生に悪戯心を湧かされその小さな身体を思う存分くすぐられた勇太は疲労がピークに達してからあっという間に寝落ちしてしまった程だ。

 楽しかったね。
 賑やかだったね。
 面白かったね。

 だけどこれは――。

「「 おやすみ、<迷い子>達。どうか良い一夜の夢を 」」

 ―― そして今宵の夢の扉は、閉じられた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ) / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 PCゲームノベルへのご参加有難うございます!

 今回は三人での参加と言う事でどういう展開が楽しいかなと考えた結果、このように。
 そして当方のNPC全員に逢ってみたいの希望を有難うございました!
 ならばやってみせよう根性発揮で、勢ぞろいさせてみたりv

■工藤様
 いつもお世話になっております!
 久しぶりのチビ猫獣人化ですね! 思う存分カガミが可愛がっておりますし、舞台裏ではもっと甘やかしてるかと!
 ハスロ夫婦様の猫耳尻尾出現のきっかけに能力を置かせて頂きました。これも有りかなっと?

カテゴリー: 01工藤勇太, その他(蒼木WR), 蒼木裕WR(勇太編) |

これは彼を招待した夫婦のお話

「あら、勇太君だわ。ヴィル、ほら、あの人そうよね」
「本当だ。……でもどうしたんだろう。何か困っているように見える」

 長い黒髪が美しい女性、弥生 ハスロ(やよい はすろ)は自分の夫であるヴィルヘルム・ハスロの袖を引っ張りながらなにやらコンビニ前で迷っている男子高校生を見やる。
 弥生からの声に当然ヴィルヘルムも気にかかりそちらへと視線を寄せ、その高校生が自分達の知り合いである少年である事を確認した。しかし二人は顔を見合わせ、若干疑問に首をひねる。
 何故ならコンビニ前にいる少年――工藤 勇太(くどう ゆうた)は扉の前で腕を組みなにやら入店を迷っているように見えるからだ。表情も芳しくなく、どちらかというと落胆した雰囲気を感じる。しかし見ているだけでは何も解決しないため、弥生は勇太に声をかける事にした。

「勇太君ー」
「あ、弥生さん。それにヴィルヘルムさん。こんにちはー!」
「こんにちは。どうかなさったんですか? さっきからこの扉の前で迷っているように見えたんですけど」
「え、俺そんなに二人に見られました!?」
「いいえ、そんなに長時間は見てはいないけど、なにやら困っている様子なのはすぐに分かったもの。何か困った事でもあったの?」
「実はですね……」

 勇太達は他の客の邪魔にならぬようコンビニの扉の前から少し外れた場所へと移動する。
 そして話題の中心人物である勇太は自分の身に降りかかった災難を弥生、ヴィルヘルム夫婦へと話した。簡単に説明すると一人暮らしをしている勇太が夕飯を買いにコンビニまで来たが途中で財布を落としてしまったとの事。幸いにも財布は小銭入れ程度のもので貴重品は無かったが、本日の食事をどうするか途方に迷っていた……と、そういう話である。

「一人暮らしって……ご両親はどうしたんだい?」
「あ、え、えっと俺の両親色々と忙しい転勤族なんで、そのために一人暮らししてるですよ、あははは!!」
「なるほどね。それじゃあ生活が大変でしょうに……。それにコンビニでご飯なんて経済的にも栄養的にも良くないわ」
「じゃあ、勇太さん。君さえよければ今日はうちで夕食を食べていくかい?」
「え、本当ですか!?」
「良いよね、弥生。夕食の買い出しも今からだし」
「ええ、もちろん構わないわ」
「じゃあ今日は好意に甘えようかな……」
「あ、でも警察には寄ろうか。貴重品が入ってはいないとはいえ勇太さんの財布が届けられているかもしれないし、逆に紛失届けを出しておけば勇太さんの財布を見つけて下さった人が届けてくれるかもしれないからね」
「はい!」

 両親に関しては本当は嘘だが、勇太は自分が一人で暮らしている本当の理由を言えない為若干引きつった表情で誤魔化しにかかった。それに関してハスロ夫婦は追及しなかったため、彼は内心安堵の息を付く。
 そして話が纏まると勇太は今まで憂鬱そうだった表情を嘘みたいに晴らし、満面の笑顔を浮かべた。次いで、夫婦の隣に並ぶように勇太は歩き出す。三人でスーパーまでの道程を歩き、途中の交番で財布の一件を聞いた。しかし財布を拾った人は無く、残念ながら紛失届けを出す形となってしまう。
 しかしそれでも勇太の心はとても軽い。今、彼に尻尾が生えていたのならば思い切り振って付いていっているだろうと容易に想像出来るほど夫婦の好意が嬉しかったからだ。
 やがてスーパーに辿り着き、買い物かごをカートに乗せつつ弥生は勇太へと視線を向ける。

「折角だし勇太君の好きなものでも作ろうかしら。キミは何が好き?」
「エビフライが好きです!」
「エビフライかぁ。良いわね。ヴィルもそれで良いかしら?」
「ああ、良いよ。エビフライを食べるのも久しぶりかな。勇太さん、弥生は料理が上手だから期待しておくと良いよ」
「本当ですか!? 俺マジでエビフライ大好きなんですよ!!」
「急に目が輝きだしたわね。そんなにもエビフライが好きなの?」
「そりゃもう、将来エビフライと結婚しようかなって思うくらい!」

 勇太は拳をぐっと作りながら己のエビフライ好きを力説する。
 その間にも弥生は海鮮コーナーへと足を運び、エビフライ用に美味しそうな海老を選び始めた。後ろではヴィルヘルムと勇太が他愛の無い話をしつつ、彼女についていくように足を運ぶ。エビフライだけではなく、揚げ物中心にしようと考えた弥生は、南瓜やたまねぎなど次々に足していく。買い物かごは次第に重さが増し、籠を乗せているカートを押すのが辛くなるとヴィルヘルムがすぐに交代を進言し、弥生は彼にカートを渡した。
 ついつい調子に乗って籠二つを山盛りにするほど商品を入れてしまったが、荷物持ちはいるし大丈夫だろうと考え、弥生はレジへと夫を呼ぶ。

「うーん、買い過ぎちゃったかしら。でも今日は勇太君もいるし、これの半分くらいは食べれるわよね」
「え、じゃあ普段はこれ以下って事ですか!? お、俺そんなに食べませんよ!」
「成長期の男の子が何を言うんだい。きちんと夕食は食べていきなさい。遠慮なんてしなくて良いからね」
「ヴィルの言う通りよ。それに買い過ぎちゃった分はどちらかというと保存が効くものばかりだから大丈夫。ほら、見て。お菓子とか多いでしょう」
「それでも買い物袋五つ分は多かったかもしれないよ」
「ふふ、暫く買出しに行かなくて済んでいいかも」

 男二人が袋二つ、弥生が袋一つを引き受けながら夫婦が住む住居へと今度は移動を開始する。
 こうして財布を落として落胆していた勇太はハスロ夫婦に拾われ、彼は二人に心から感謝しつつ有り難く彼らの自宅へと招待される事となったのだ。

■■■■■

 彼らの自宅へと着くと当然勇太は「夕食の手伝いします!」と進言したが、弥生は「勇太君はお客様なんだから今日はゆっくりしてて」と笑顔で却下する。
 そんな彼らの様子を見たヴィルヘルムはやさしく微笑みながら、リビングへと勇太を招き、二人で夕食までの間雑談をする事となった。

「勇太君は高校ではどんな風なんだい?」
「え、俺ですか? ちょー普通ですよ。どこにでもいる高校生です」
「部活とかは入っていないのかな」
「あ、実は新聞部に入っているんですよねー。……あまり顔出してないけど」

 舌をぺろっと出し、付け足す言葉にヴィルヘルムは笑う。
 二人でソファーで寛ぎながら喋る会話は平和な内容そのもので、傭兵であるヴィルヘルムは『普通の生活』をしているという彼に癒しを貰った。そんな夫の雰囲気を妻である弥生もまた快く感じ、リラックスしている旦那と楽しそうに喋る勇太の姿を時折見やりながら料理を進めていく。
 「エビフライが好き!」と心から言い切った勇太の為に、弥生もまた想いを込めて衣を纏わせた海老を油へと下ろす。もちろん他の揚げ物も作っていくがメインは勇太が好きなエビフライだ。

「へえ、そうなんだ。日本の高校生は今そういう事を習うんだね」
「ヴィルヘルムさんはどういう生活をなさってきたんですか? あ、そうじゃないな。どちらかというと俺二人の馴れ初めとかお聞きしたいです!!」
「――馴れ初めか。そうだね、それは秘密かな」
「えー! どうしてですかー! あ、二人だけの秘密にしたいとかそういうラブロマンスがあったという事ですかね?」
「はーい、食事の用意が出来たわよ。二人ともこっちに来て頂戴」
「わーい! エビフラーイ!」
「ラブロマンス……だったかな」

 会話の途中で弥生の方から声がかかり、勇太は座っていたソファーから立ち上がると食卓の方へと早足で寄る。その後ろをヴィルヘルムがゆったりとした動きで追いかけた。

「って、弥生さん!」
「何?」
「このエビフライの量なんなんですか!? え、え、俺達三人分ですよね!? ここに出ているという事は後で冷凍しておいておくとかそういうんじゃないですよ!?」
「勇太君があまりにもエビフライが好きだって言っていたからついつい張り切りすぎちゃったのよね。海老を選ぶ段階から数が可笑しかったけど……あ、食べれそうに無かったら冷凍しちゃうから言ってね」
「いいえ、俺は思い切り食べますよ!」
「しかし弥生……本当にもの凄い量を作ったね。まさか大皿二つを使うほどのエビフライが出てくるとは私も予想してなかったよ」

 ででんっ! と主張する大皿二つ。その上には勇太の好物のエビフライが山盛りになって乗っていた。
 弥生は白米を茶碗に盛り運びながら「やりすぎちゃったかな」と夫に様子を伺う表情を見せる。しかしヴィルヘルムは何も咎めず、むしろ首を振って否定し、嬉しそうな勇太を優しい眼差しで見ていた。
 やがて食事の準備が全て整い、仲良く並んだ夫婦の対面席へと勇太が腰を下ろすと食事が始まる。三人で両手を合わせて挨拶をした後、勇太は真っ先に箸を出来たてのエビフライへと伸ばした。

「勇太君は本当にエビフライが好きなのね」
「ん、ん、んっ。だいふきでふ!」
「ああ、食べてから口を開いた方が良いと思うよ。それじゃ何を喋っているか分からないからね」
「……んっく! 弥生さん、このエビフライめっちゃ美味いです!」
「お口にあって良かったわ。他の揚げ物もちゃんと食べてね。ご飯のお代わりも遠慮せずに言って」
「弥生の料理は本当に美味しいから食べ甲斐があるよね」
「ヴィルが褒めてくれるともっと嬉しくなっちゃうじゃない」
「だって本当にそう思うんだから仕方ないね」

 夫婦の仲良しな雰囲気に癒されつつ、弥生作のエビフライに感極まった勇太は何度も「美味しい」「美味しい」と繰り返しながらあっという間に大皿一つ分を食べ終えてしまう。その勢いに夫婦は目を丸めるが、その後ぷっと二人同時に息を噴出した。

「はー、食べた食べた。あ、夢中で食べてしまったんですけど本当に平気でした? ――って何で二人とも笑ってるんですか」
「ふ、ふふ……大丈夫よ。あまりの勢いに思わず、ね。ヴィル」
「ああ。ちょっと驚いてしまったのと、あれだけのエビフライが君の口の中に入ったという事が素晴らしいなと思っただけだから気にしないで」
「そうっすか? それなら良いんですけど。……あ、そうだ。さっきヴィルヘルムさんに質問してたんですけどお二人ってどうやって出逢ったんですか? あとお仕事とか何をしてるんですかー?」

 一皿分のエビフライを食べ終えた勇太は心に余裕が出来たのか、夫婦に質問する。
 しかし二人は互いに顔を見合わせた後、ほんの少しだけ目元を細めアイコンタクトらしき事をした後、弥生は人差し指を唇の上に置いた。

「それは秘密よ」
「えー、何それ! 余計に気になる!」
「大丈夫だよ。怪しい宗教団体とかには属していないからね」
「それは良かった……じゃなくってですね!」
「さあ、ご飯お代わりはいかが? 勇太君ならもう一杯くらい食べれそうよね」
「あ、それは遠慮なく頂きます」

 ハスロ夫婦は仕事内容と二人の出会いに関しては話さず、さりげなくそっと別の話題へと誘導する。勇太は勇太で話したくない事がある身ゆえ、夫婦が話したくないならばと追求はせず、素直に茶碗を差し出す事にした。

「……家族ってこんな感じなのかな~……」

 ぽそりと呟く勇太。
 諸事情により「家族」という感覚を知らない彼は、今この場の雰囲気をなんとなくそう例える。
 料理上手な優しい母、話を聞いてくれ指摘もしてくれる父。
 そんな二人に育てられる子供はとても幸せだろうに、とさえ思ってしまった。

「ん? 何か言ったかい」
「なんでもないです! エビフライが美味しいって言いました!」
「それを聞いたの何度目かしら」

 弥生は勇太の言葉が可笑しくて可笑しくて口元に手を添えながらくすくす笑う。
 ヴィルヘルムは何か誤魔化しているんだろうなとは察したが、勇太が落ち込んでいるようではないので何も言わず、普通の話題を振った。

 貴女が母で。
 貴方が父で。

「流石に俺じゃ大きすぎる子供か」

 本当の家族にはなれないけれど、三人で過ごすこのひと時はとても楽しい時間。
 勇太はそっと心が温まるのを感じると、二杯目のご飯を受け取った後二皿目のエビフライへと箸を伸ばした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ) / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 まさかのこの三人での発注有難うございました!
 発注を頂いた時から既にほんわか気分で、どうやって書こうかなぁと幸せになりつつ。

 三人で過ごした食卓の幸せ……どうか伝わりますように。

カテゴリー: 01工藤勇太, その他(蒼木WR), 蒼木裕WR(勇太編) |

害のない神隠

「お、例のテーマパークの依頼人から手紙が届いたぞ。零」
「ああ、先日の依頼の方ですね。無事依頼をこなせたそうで良かったじゃないですか」
「そうだな。お礼状か?」

 馬鹿丁寧な依頼人だったしな、と言いつつ草間興信所所長である草間 武彦(くさま たけひこ)は封筒を指先で破り中身を取り出す。そこには白い便箋とそれからまた封筒が入っていた。まず武彦は便箋の方を開き、内容を読む。

「『先日は当方の依頼を引き受けて頂き真に有難うございました。つきましてはお礼と致しまして、当テーマパークの入場券とフリーパスのチケットを同封させて頂きましたので、良ければご都合の良い日にご来園頂ければ嬉しく思います』」
「お兄さん、ではそっちの封筒がその入場券とフリーパスなんですね」
「そうみたいだな。……いや、待て。まだ何枚か便箋が……なになに。『依頼状』……零、ゴミ箱!」
「せ、せめてその内容を読んでから捨てましょう、ね?」
「くそ、一枚目で丁寧な印象だと思いきやこの不意打ち……」

 武彦は今にも便箋を握りつぶし、破いてしまいそうな勢いである。
 それを押さえるかのように零は優しく言葉をかけ、武彦は続きを読むことにした。

「『依頼状。実は先日より異常なほど迷子が増えております。子供から目を離すうっかりものの保護者の方が増えたのかと思えば、子供曰く「気がついたらここに居た。お母さん達の方がはぐれたんだよ」と言う始末でございます。実際保護者の方も「そもそも手を繋いでいた」と、明らかに迷子になる要素が可笑しい状態です。最初は誘拐の件も考えましたが、行方不明者は一人も出ておりません』……だとさ。どう思う、零」
「うーん、良く分からないですね。他に何が書かれてるんですか?」
「『迷子は子供に留まらず、大人の方も「気付いたら友人とはぐれた」と言う方が何人かいらっしゃり、お相手の方も「気付いたら居なくなっていて困った」という話がちらほら。ネットの掲示板の方でも面白がって変な噂を流され始めて少々困っております。ちなみに変な噂と言うのは「害のない神隠し」という名で検索すれば直に出てきますが、こちらで纏め、プリントアウトしたものを同封しておきます』」

 ――――――――――

 【害のない神隠し】
(※の部分は当テーマパーク内のみでの情報です)

 某テーマパークにて今『迷子』が流行っている。
 だが迷子にしては可笑しく、保護者や恋人達が手を繋いでいても相手がいつの間にか消え、ある場所に移動しているというものだ。
 小さな子供達はスタッフにより迷子センターに案内されてアナウンスが流され、親は慌てて迎えに行き再会する。
 それなりに判断力のある子供(中学生くらい)や大人達は携帯で連絡を取り合い、この不思議な現象に付いて首を捻るばかり。悪戯だと喧嘩に発展しているケースも多々ある。
 結果的には「害のない神隠し」的なものであるが、何故このような事象が起こっているのかわからない。

 現在分かっている共通点は以下である。

・手を繋いでいてもふとした瞬間、相手がいなくなっている。
・相手もまたしっかり手を繋いでいてもいつの間にか別の場所に移動させられている。
・しかし誰かに連れ去られたという感じではない。(誰かに触られたという報告は無い)
・※消えた瞬間を見たという証言は今のところ出ていない。

・時間はおよそ午後五時前後に発生。
 ※毎日発生しているかどうかは不明。(客が報告してこない事例もあるため)

・結果的に「ただの迷子」という事で片が付いているが、もしかしたら何か怪奇現象でも発生しているかもしれない。

・グループ単位で行った場合の発生例有り。
 (五人グループの内二人が気付いたら消えていた。ただし男女だったため、噂を利用し、示し合わせて離れた可能性有り)
・※一人来園での報告は現在無し。もしかしたら一人の場合はそのまま消えている可能性有り。

・【最重要】居なくなった人物達は同封しているマップ付近に必ず移動させられている。
 (※そのため現在スタッフ達にはそれらしい迷子を見つけると声を掛けるよう指示しています)

 ――――――――――

「地図もご丁寧につけやがって……ふぅん、ここか」
「これあのテーマパークでも目立つかなり大きい洋風の時計搭ですよね。あ、ここに写真が載ってます!」
「『尚、この変な事象を収めて頂いたときの報酬金は』――う! ……桁がまずい。誘惑される」
「…………うち、貧乏ですから。まあ、行くだけ行ってみてはどうですか? 折角フリーパス付きですし」
「零、お前は行きたいのか?」
「はい!」
「……はぁ……行くか」

 武彦は依頼人に連絡を取り、一先ず妹と二人で行くという話を通した。
 まだあやふやな状態で他の人間を巻き込めないと判断した上でだ。零はいそいそと外出着に着替え、嬉しそうに兄と二人で例のテーマパークへとバイクで二人乗りで移動する。見覚えのある依頼人が「今回も興味を持って頂いて助かります」とそれはもう嬉しそうに出迎えてくれた事に正直武彦は苦虫を潰したような気分になったが、金が掛かっている以上表情には出さない。
 依頼人と共に例の神隠しにあった人物達が集まるという時計搭を目指し、ズボンポケットに手を突っ込みながら武彦は歩く。零もまたそんな兄の隣に立って彼の腕に手を添えながら依頼人の話――手紙に書かれていた事とほぼ同じ話を聞きながら歩いていた。
 新しい情報になるか分からないが強いて言えば「実はあの噂のおかげで入場者が微妙に増えつつあるんですよね。ですから今回直接ではなく、間接的に依頼をお願いしてみたんです」と……それくらいだ。
 すると。

「お兄さん?」
「草間さん?」

 ――居ない。
 二人は慌てて各自時計と携帯を取り出し時間を確認する。時間は午後四時五十五分。依頼人と零は顔を見合わせ、それから時計搭へと一目散に走った。
 武彦は『そこ』に居た。
 ズボンポケットに手を突っ込んだまま時計搭を見上げ、「お兄さんっ!」と零に抱きつかれるまで真剣な面立ちでそれを凝視していた。

「なるほど……確かに『害のない神隠し』だな」
「一体何があったんですか、ねえ、お兄さん!」

 やがて針がカチっと五時に重なると園内に時計搭からの鐘の音が響く。

「ま、確実に言える事は空間作用っぽいって事だな……何にせよ、時計搭も関わっている事は間違いないだろう。噂が噂を呼んだ可能性も否定しきれん。なあ、依頼人さん」
「はい!」
「とりあえず、そこの迷子保護してやってくれ」

 武彦が示した先、そこには十歳にも満たない子供がおろおろと誰かを探している姿が目に入った。

■■【scene1:協力者集合!!】■■

「夏休みの暇人! 工藤 勇太(くどう ゆうた)参上!」
「帰って宿題やれ」
「ガーン! 即答って酷くないですか、ソレ!」
「まあまあ、お兄さん。工藤さんが調査に加わってくれるのは嬉しい事ですよ、ね?」

 草間 武彦が神隠しにあって数日後のテーマパーク。
 現在午前八時、場所は正面ゲートにて今回の調査に加わってくれる面々が集合している。そして調子に乗った高校生――工藤 勇太(くどう ゆうた)が武彦とぎゃーぎゃー騒いでいるのを呆れた顔で見ている少女が一人。

「あんなぁ。最初からそんなんでほんまに大丈夫やのん?」

 訂正。
 金の長いウェーブの髪に碧眼。眼鏡を掛けた外見十五歳ほどに見えるが二十一歳の女性であるセレシュ・ウィーラーが声を掛けた。その声に反応し、二人はぴたりと動きを止めた。とは言いつつも勇太の方が一方的に武彦に突っかかって、零が軽く宥めていただけだが。

「朱里、何か面白い情報はあったか」
「あ、英里あんまり近付かないでね。ノートパソコン壊れちゃうと困るから」
「なっ! わ、私だって何故自分が居るだけで電気機器が壊れるのかなど分からないのに!」
「うん。それは分かってますから、えっと……あ、害のない神隠しのスレッドが結構更新されてる」
「お、何か面白そぅな情報、見つけたん? うちが調べた時には一応今回の一件は『無害』やとは確認出来たんやけど」
「そうですねぇ……」

 今回の協力者の残りの二人の一人、鬼田 朱里(きだ しゅり)がベンチに腰掛けながら持参したノートパソコンで直前のネット調査を行う。
 それを最後の協力者である人形屋 英里(ひとかたや えいり)が近付いて覗き込もうとしたのだが、朱里が慌てて彼女がからパソコンを遠ざけた。英里には彼女自身もあまり自覚出来ていないのだが、己の妖力のせいで電子機器が壊れる性質を持っている。恐らく自覚してセーブしてくれれば問題はないのだが……それはまだまだ先のようだ。
 さて、若干拗ねるような仕草を見せる英里ではあったが、ここでノートパソコンを壊してしまうわけにはいかないため、いつも持っているトランクと共に大人しく距離を取る。その隙に朱里はまた調査を開始し、同様に事前調査していたセレシュが彼に声を掛けた。

「捜査になりませんね。これ」
「なんでや?」
「ほら、ここ」
「ん? 何や何や……『実はその手を繋いでいたはずの人が別の何かだったんじゃね? ほら霊?とかさー』『一瞬パラレルワールドに行ったんだよ! ちがいねえ!』『テーマパークのスタッフが案外黒幕だったりしてな』……なんやねん、これ」
「ははははははははは……くすん。情報調査が役に立ちません、くすんくすん」
「朱里。嘘泣きとはいえ泣き真似は男らしくないぞ」
「くすん、くすん。英里慰めてください」
「近付くなと言ったのは朱里じゃないか。慰めて欲しければ電子機器を遠ざけてから来い!」
「朱里さんらほんま仲ええなぁ……」

 セレシュが朱里のパソコンを借り、一区間分離れたベンチで最終ネット調査を行う。
 その間に朱里は英里の元へと駆け寄り、その身体をぎゅっと抱きしめる。そして抱きしめられた英里の方は嘘泣きとはいえ調査の役立たなささに落ち込んでいる朱里の頭をよしよしと慰めた。
 「なんなら人形を使って劇を……」「私そこまで子供じゃありませんよ!?」と和む声が聞こえたきたのはそのすぐ後で。

「あかんわ。ホンマにネットの方は滅茶苦茶や。武彦さんに依頼人さん、とりあえず被害らしい情報はまだ上がってへんみたいやし、今んとこは『無害』でええっぽい」
「今回の一件は草間さん達に託します。特に草間さんは先日私の傍で神隠しにお遭いになられましたし」
「……まあ、俺がピンピンしているのが『無害』の証とも言えるかもしれないけどな」
「お兄さん、これからどうします?」

 依頼人の男は腕時計を見ると「すみません、私は開園の準備がありますので」とその場を去ろうとする。だが、その前にセレシュは依頼人の男に声を掛け、ある事を頼んだ。すると彼はすぐに「分かりました」と返事をし、彼女と携帯でなにやらやり取りをした後去っていく。
 一任された武彦は「とりあえず集合」と声を掛け、全員が全員の顔を見れるように円を描いて集まった。さて時間は八時を超え、そろそろ半になる頃である。流石に何かアイディアを出し、動かなければいけない頃合だ。

「私思うのですが、今回の一件は全員で行動するより複数グループと二人組グループで分かれて行動しませんか?」
「あ、朱里さんの意見には俺も賛成。だって今回の一件って聞いた話じゃ二人組ばかりじゃなくって複数グループの間ででも起こったんでしょ? っていうか草間さんの場合も三人だったって言うし。それだったら二人組のグループを幾つかで分けるとか」
「今何人や? んー……六人やな。分けるなら、二対四か一、二、三か二人組が三つやな」
「ん? ちょっと待った。私は一人になったやつは帰ってこない可能性があると聞いたが、一人にしていいのか?」
「一、二、三以外でお願いします! お兄さんが次攫われたら帰ってこなくなる可能性があります!」
「おい、零。そこで何故俺をはぶいた」
「だってお兄さん絶対一人行動の方が気楽だからって離れそうですから!」
「……」
「否定して下さいー!!」

 そっと視線を逸らした武彦に思い切り心配げに引っ付く零。
 この兄妹は……と呆れた表情を向けたのはさて何人だったか。

「んじゃま、とりあえずうちはどこのグループでもええんで。調べ物してる間に決めたって」
「んー、じゃあ二対四が良いかな。二の方は男女グループの方が良いよな、前例が男女だったらしいし」
「私は朱里と離れたくない」
「私も出来れば英里と一緒が良いです」
「……えっとそうなると草間さんところのペア、後はセレシュさんと俺で二人とか?」
「じゃあ、俺と零が二の方に行こう。一回神隠しに逢っている身だ。どちらかと言うとこっちは可能性が低い」
「んじゃ、草間さん達が二、残りの人が四でオッケーっすか?」
「「「はーい」」」
「セレシュさん、そういう事で決まりましたけど、調べ事終わりましたー?」
「ん、閉園時間は今は夏やさかい夜の九時。んでな、後で依頼人の兄さんに頼んだものが届く予定やからそれ待ちや」

 セレシュが携帯電話で依頼人の男と連絡を取り終えた頃に勇太は声を掛ける。
 そして彼女の手の中には園内マップ。既にやる気満々な彼女に負けられないと勇太も気合いを入れた。勇太はそっと目を伏せ、自分の能力の一つであるテレパシーで軽く園内をサーチしてみる。もし侵入者や不審な思念などがあれば引っかかるだろうと信じて。
 だが、現段階ではスタッフもとい人間だと思われる人以外の気配は無し。ふぅっと息を吐きながら瞼を持ち上げた。

「あ、私から一つ提案というか……こういう時の基本なんですが、皆さんの携帯電話番号とメールアドレスを連絡用に交換しておきましょう。それで定期的に自分達がどこに居るかなど送りあうと」
「おっけ。俺の連絡先は――」
「……う、私は持っていない」
「英里が持っていないのは知ってるよ。だから私から絶対に離れないでね」
「朱里……すまん」
「なんか、ベタ甘な言葉にしか聞こえへんのはなんでやろな。あ、うちの連絡先これや」

 武彦は「俺の分は知ってるだろ」と言いつつタバコを吸う。
 零が改めて知らない人達と自分の携帯の連絡先を交換しているのを見やりながら白い煙を吐き出した。やがて全員の連絡先を教えあい、各々きちんと自分達の携帯に連絡が飛ぶか確認しあう。電子機器には出来るだけ近付きたくない英里だけは少し距離を置いて、持ってきていた狐のぬいぐるみを抱きしめながら彼らを待つ。

 空を見上げれば快晴。
 夏服とはいえゴスロリの格好をしている英里に夏の日差しは少々厳しい。

「本当に良い天気だ。狐と戯れたくなる」

 額に手を翳し影を作りながら彼女はそう呟いた。

■■【scene2:ちょっと待て、そこを詳しく!!】■■

  ――――――――――――――

  08/09 10:01
  From 草間 零

  B班、二人揃っています。
  場所は現在メリーゴーランド前です。

  ――――――――――――――

「お、零さんから連絡来はったわ」
「こっちも来ましたよ」
「向こうは兄妹で仲良く遊んではるんかな」
「え? 俺達がやってるのって調査ですよね?」
「ごほんごほん。なんでもあらへんで、勇太さん。うちかて調査に必死なんや」
「こっちは誰が返します?」
「ああ、じゃあ私が提案したので私が」

  ――――――――――――――

  08/09 10:05
  From 鬼田 朱里

  A班、全員無事です。
  場所は××コースターです。

  朱里

  ――――――――――――――

「ああ、しかしこのコースターは結構怖いと評判なんですよね。楽しみだなぁ」
「え、そうなん!? うちちょっとわくわくしてきたわ」
「俺も気になるなー。さっきから客がキャーキャー騒いでますもんね」
「……一部違う悲鳴が上がってるが」
「英里何か言った?」
「いや、朱里は知らなくていい」

 今、彼らがいる場所はこのテーマパークのなかで一番スピード、高度、回転などが怖いと評判のジェットコースターの列。これの前にも四人並んで仲良くフリーパスを使って別のアトラクションに入ったりして意外と調査よりも遊び寄りだったりする。
 だが、その中でも英里だけは出来るだけ周囲の人間の声に耳を傾けるようにしていた。依頼人が「噂によって来客数が増えた」と言っていた事から、興味本位で遊びに来ている人間もこの中には多く存在しているのだろう。ならば直接そのような人間から何か面白い事が判るかもしれないと考えたためだ。
 しかし。

「ねえ、ちょっと! あれ『Mist』のアッシュじゃない!?」
「うそー! アイドルがこんな普通に遊ぶわけないじゃん! 今日だって撮影だって朝にブログに書いてたよ?」
「でも似てるよー! ちょー似てる!」

 ……。
 朱里の仕事面であるアイドル、「アッシュ」を知っている人間が騒いでいる事も知らず、当の朱里は「次はどこに行きます?」などと暢気に園内マップを覗いている。英里はうーむと腕を組みながら眉間に皺を寄せた。――『あいどる』とは本当に面倒なものだ、と。

「お、うちらの番が来たで」
「俺マジで期待していいかな! わくわくしてきた」
「英里、行くよー」
「……」
「英里?」
「――はっ! 少し考え事をしていた」

 荷物置き場にトランクなど全ての荷や小物、帽子など落ちやすいものを置くと、四人で横並びで座席に座る。
 それからはスタッフの指示に従ってベルトや安全バーなどの取り付けに掛かった。

「そういえばさー、ここの噂知ってる? 『害のない神隠し』っていうやつ」
「あ、知ってる知ってるー。時計搭に飛ばされちゃうっていうヤツでしょ? そのせいか今日散々アナウンス掛かってたよねぇ。『お子様からは目を離さないで下さい』ってさ」
「うんうん。でね、丁度此処に来てその噂を思い出してね。その話を見つけた掲示板をさっき携帯から見たんだよね。そしたらさ、誰かが『時計搭――」

『××コースターはこれより発車いたします。しっかりと安全バーに掴まって快適なスピードの旅をお楽しみ下さい』

「けど』――って、書き込んであったんだよね」

 ガタンガタン。
 コースターは動く。しかし四人は一斉に噂話をしていた女子高生らしい二人組を見た後、各々顔を見合わせた。

「今のって」
「私が見た後に書き込まれた情報を喋ってました?」
「放送で聞こえへんかったんやけどそうっぽいで」
「どうしてタイミングが綺麗に被ってしまったのだー!」

 ガタンガタン。
 コースターは動く。高く高く、一番落下する場所までその機体を上げて。ギリギリと英里は歯軋りをする。勇太も流石に今の状況ではあの二人組にテレパシーを飛ばす余裕など無い。
 ガタンガタン。
 機体が上がって、そして……――、一時停止。

「ぎゃぁああ――!!! 結構怖ぇえ!! 止まるの怖い!」
「え、えーっと後でパソコンで掲示板チェックしますから、今は楽しんでいいですかー!?」
「ええんとちゃう? う、高い。あの時計搭の何倍も高い……」
「わ、私は一般ピーポーなのでこ、これくらいは……って一般ピーポーでも怖い!!」

 やがて訪れる落下の時。
 その時笑っていたのは誰で、その時涙ぐんでいたのは誰か。

「あははははははは!! 英里楽しんでますかー?!」
「ぐっ、しゃ、しゃ、べれんっ」
「ぎゃー! 酔う! 絶対俺、後で死亡フラグ!!」
「朱里さんは余裕有りすぎやー!!」

 ……それは、声さえ判別出来れば余裕で分かるかもしれない。

■■【scene3:新たなる情報浮上】■■

「あー、これですね。『時計搭の鐘は一回入れ替えられたと聞いたことがあるよ。本当かどうかわからないけど』」
「めっちゃ重要やん!!」
「『でもそれ数ヶ月前の話だし、時期が合わないから関係ないかもwwwww』」
「……あ、微妙になってもた」

 木陰のベンチに座りながらノートパソコンを弄り、朱里は掲示板をチェックする。
 それをセレシュが覗き込み、朱里が読み上げた最後の言葉に肩を垂れ下げた。一区間外れた先にいる英里と勇太へと二人が視線を向ければ、二人はテーマパーク内の自販機で買ったばかりのペットボトルのジュースとお茶を一つずつ握り締めながらぐったりと倒れ込んでいる。よっぽどコースターが効いたらしい。特に電子機器に寄らない英里はこういう場所にもあまり来ないため、口から魂が出そうな勢いで疲れきっている。
 まだ昼も過ぎていないというのに……とセレシュは少々同情してしまった。
 ふと、セレシュの携帯が鳴る。他の人間もその音に反応し携帯持ち組が携帯を取り出してチェックするが、それは零からの連絡ではなかった。

「あ、依頼人の兄さんや。――はい、セレシュです。例の件まとめてくれはりました? あー、じゃあ、今からこっちでチェックしますんで、読み上げてもらってええですかー?」

 セレシュの言葉に一同は己の携帯を仕舞おうとする。
 だがその瞬間、勇太と朱里の携帯がメール受信の音を鳴らした。それをチェックすると今度こそ零からの定期連絡だったので朱里が丁寧に……そしてついでに新たに判った情報を添えてメールを送信した。
 さて、セレシュはベンチの上に園内マップを広げて電話越しに聞いた場所を持ってきていたペンでチェックしていく。やがてそれらが全て共通点を示すと、彼女はふっと口元を緩ませて笑った。

「――ええ、じゃあ、引き続き調査に入りますんでー、はい。じゃ。――……さて、皆。やっぱり、共通点あったわ」
「うー……なんすか? 何が発見されたんですか?」
「私はもう近付いていいのか?」
「ちょっと待って下さいね。ノートパソコンと携帯を離すから」
「まあ、簡単な話や。神隠しにあったという人間達の証言を纏めて貰って、どこで神隠しが起きたのかチェックしただけ。するとどうや! この見事な円!」
「――時計搭を中心に綺麗な円が描かれてますね。多分証言が無い人もこのライン上で消えたのかも」
「って事は俺達はこのライン上を調べていけば何か見つかるかもしれないって事ですよね」
「でもこの円かなり広いな」
「遊びながらなら大丈夫だよ、英里!」
「……いいのだろうか、それで」
「ええんとちゃう? ただ園内を見回るだけやと疲れるだけやし」

 依頼人の男と連絡を切ったセレシュが嬉々としてマップを皆に見せ付ける。
 最終的には武彦にも皆で連絡を取り、彼が消えた場所もそのライン上だった事が判明するとセレシュが「それみい!」と一層自信を持った。

「ってなわけで」
「と言うわけで?」
「遊びながら調査ですね!」
「朱里!」
「もうええやん。英里さんもたまには羽目を外して遊んでも罰とかあたらへんで」
「……本当に良いんだろうか、この調査方法で」
「んー、うち思うんやけど、実際調べようという意識が働いていれば逆に遭遇出来ない類のもんかもしれへんし」
「! なるほど! それならば私も納得なのだ」
「じゃあ、遊びながら調査で!」
「でもその表現は駄目だと私の中の何かが訴えるのだが」
「英里、諦め肝心だよ?」
「……あー、うん。ほら、五時手前くらいから真面目に調査してれば少なくとも草間さんには怒られないし。良いんじゃないかと俺も思うよ?」

 勇太が軽くフォローに入り、セレシュも建前を堂々と言い切り、そして朱里は英里の肩をぽんっと叩く。やがて彼はノートパソコン類を綺麗に専用鞄の中に仕舞い込むと英里の手を取り、楽しげに彼女を引っ張りながら朱里は軽く振り返りながらその中性的な面立ちで微笑む。

「このライン上で遊ぶなら次はお化け屋敷ですよね!」
「何故そうなるのだー!!」
「今回、アクティブな朱里さんに誰も敵わないので有りました、まる」
「なんでそこでナレーション的な文章が入んねん」

 勇太の言葉にセレシュが思わず裏拳で突っ込んだ。

■■【scene4:害のない神隠しへの挑戦】■■

「そして時は流れ、俺達は遊び兼調査を繰り返し、今此処に居るのです。ナレーターは工藤 勇太がお送りしております」
「どっかのテレビ中継かい」
「現時刻はえー、十六時四十五分。例の時間の十五分前でございます。皆様心境的にはどんな感じで?」

 ふざけつつも勇太はセレシュが持っている地図を見て、そのライン上に確実に自分達が乗っていることを確認する。エアーマイクを皆に向け、本当にアナウンサーちっくに言葉を連ねてはいるが、実際は緊張しているのを解すためでもあった。

「とりあえず、この中の誰かが消えたらすぐに連絡と時計搭に走るという方向で良いですか?」
「おっけ」
「草間さん達は今うちらと対極の場所にいるらしいで。さっき連絡もろた」
「じゃあ、さっき俺が説明した通り、皆とはテレパシーで思考を繋げておきたいんですけど……うーん、三人かぁ。出来るかな……」
「やるだけやってみぃ。どんだけ細い糸でも繋がってたら手繰り寄せられるもんやで」
「じゃあ、失礼して」

 勇太は神経を集中させ、朱里、英里、セレシュとテレパシー能力で思考を繋げ始める。
 ぴりっとした痛みのようなものが皆頭に一瞬刺さったような気がして顔を顰めた。

「これで繋がってるんですよね?」
「多分。あ、でも俺とだけですよ。俺を通じて他の人と繋がったりは出来ないんで」
「へえ――じゃあ、例えばこんな事を考えたら……」
「ぎゃ!」
「あ、通じてる。え、じゃあこっちはどうですか?」
「うわ、ちょ、えー!」
「朱里……何を考えてる」
「健全な男の子には刺激的な事」
「……」
「…………繋がってるって判っただけマシとしとこ。な? 勇太さんもあんまり弄られんようになー」
「う、う、う……肌色成分多いのは勘弁してください……」

 だばだばと心の中で涙を零しながら勇太が本気で脱力する。朱里はそれを可笑しげに笑っていた。「鬼だ、この人」と勇太は心の中で思ったとかなんとか。
 そんな朱里を叱咤するように英里がずずいっと身体を寄せ、けれど朱里はそのまま彼女の手を掴んで「離れないようにしましょうね」などと先手を打っている。

「さてうちは――」
「うわー! なにこの思念。セレシュさんの日常に関する愚痴とか不満とか不安なこととか一気に来たー!」
「帰りたくない的な事を思う――これが今回のうちのやり方や。頑張って受けや」
「うわー……セレシュさん、俺超へこみそう。あ、俺も帰ったら宿題しなきゃ……ヤダ。宿題したくない」
「帳簿付け溜まってたの片付けなきゃならんし、勉強捗ってないな……はぁ、ほんまややわぁ」
「英里英里! あそこ纏ってる空気暗いですね!」
「いっそ、お前の陽気な思念で飛ばしてやるといい。あと人を指差しするのは駄目だ」
「えー、でも英里だってもっと陽気な事を考えてくれたら二倍に――」

 ふと、朱里の言葉が止まる。

「居ない」
「え?」
「ん?」
「英里が、いないッ!! 英里! 英里がいない! いなくなった! さっきまで私と手を繋いでいたのにッ!!」
「時間は――五十五分、範囲内や! 勇太さん、彼女の反応は?」
「えっと、えっと……やっぱり時計搭の方!」
「私は先に時計搭に行きます! 連絡お願いしますね!」
「あ、朱里さん!」

―― 英里、英里どこ!?

 さっきまで傍にいたのに。
 指を差すなって怒ってくれていたのに。
 何故彼女が神隠しに?
 何故、何故、何故。

 朱里の心に動揺が走り、情緒不安定になり始める。それでも懸命に時計搭まで走りきり、その周囲を探し始める。

「英里ー! 英里、どこ! どこにいるんですか!?」
「ここにいる」
「――っ!?」
「あまり大声を出すな。少年がびっくりしてるだろ」

 意外にも英里はあっさりと見つかった。
 時計搭の傍で迷子になったと思われる五歳児くらいの少年に一人人形劇を見せてあやしていたのだ。そこに走ってきた朱里の様子があまりにも切迫していたものだから少年は止まっていた涙が再び零れ始め……。

「ああ、泣くな。泣かないでくれ。人形劇ならもう一回するから」
「英里、英里」
「朱里も落ち着け。私は此処にいる――あ、スタッフの人が来たから少年は預かってもらおう」

 意外にも落ち着いている英里はスタッフの人に「迷子です」と言って少年を引き渡す。
 無事保護者と再会出来る事を彼女は祈りながら、少年へと手を――正しくは人形の手を振らせた。

「英里、一体何があったんですか。さっきまで私と手を繋いでいましたよね」
「わからん。私も気付いたら此処に居た。……と、いうかお前なんで一人なんだ。他の二人は? もしかして他の二人も飛ばされてお前一人が残ったというあれか」
「違います! 飛ばされたのは英里一人で……でも勇太さんが時計搭の方に英里がいるって教えてくれたから急いで走ってきて……。あー……でも見つかってよかったです」

 それは心からの安堵。
 英里の肩に両手を乗せ、朱里は肺の中の空気を全て出しているのではないかと言うほど長い時間息を吐き出していた。

「居た! 英里さん無事ですか!?」
「はー、朱里さん。自分で連絡取るって言いはったのに、先に行くとは思ってへんかったわ」
「うむ。心配を掛けて済まなかった。私は無事だ。無事だから」
「……手は離さないですから」

 仕方が無いな、と英里は苦笑しつつ、自分の手に絡めてきた相手の手を握り返した。
 そして皆して時計搭を見上げる。
 高さは十五メートルだと園内マップに書いてあったそれ。やがてカチっと針が重なる音が聞こえ、その後鐘が鳴る。

 ――そして集中する。

 何か糸を。
 きっかけを。
 何故神隠しが起こっているのか探るために。

 皆各々が持っている能力を使い、この時計搭に何か異常がないか力を巡らせる。
 その途中、草間兄妹が合流していたが、皆が皆時計搭を見上げていたので声を掛けられずにいた。だが、武彦は携帯を取り出し、依頼人の男を呼び出す。どう考えてもこの時計搭は調査対象からは決して外せない。だから彼は彼に出来ることをするのだ。

「俺達をあの時計搭に入れてくれ」

■■【scene5:時計搭へ】■■

 時計搭の中は蒸し暑く、夕方になって収まっていた汗が再び噴き出すのを感じた。
 依頼人に案内されながら彼らは上って行く。その鐘の存在する場所まで。

「鐘が取り替えられた後には何も無かったんだよな」
「ええ、神隠しが起こったのは最近ですから」
「鐘を取り替えた時に何かあったか? 事故とか」
「いいえ、何も。取替えはスムーズに進みましたし、誰一人として怪我人が出た訳でもありません。ですから私は怪奇現象とはいえ、今回の一件は危険の無いものであると判断しました」
「だが、俺が呼んだこの協力者達は――」
「はい、先程お聞きいたしました。『残留思念』っぽいものを感じた……そうですね」
「心当たりはないのか?」
「そうですね。あるとしたら……製作者の方でしょうか。随分と想いを込めて造ってくださったので……あ、足元には気をつけて。全員が上がるにはちょっと狭い場所ですから」

 依頼人は天井を塞いでいる蓋のような扉を開き、そこから時計搭へと出る。吹き込んでくる風がとても涼しかった。

「あ、これだ」
「鐘、やね」

―― どうか見守って。
    どうか幸せの鐘を鳴らすその時間に。
    どうか帰っていく人々を見守ってあげて。

「祈りのような歌が聞こえる」
「なあ、うち気付いてんよ。このテーマパーク今は夏やから九時まで営業しとるけど、普段は五時で閉園やねんって」
「あ、でもここにヒビが入ってる。このせいだと思いますよ。そのせいで鐘の特性が微妙に変わって、自然界の空間と引き合い空間を歪ませてこの時計台付近に人々を引き寄せたんだと思います」
「では鐘を交換、もしくは修理したら現象は収まるんでしょうか」
「多分な」

 時計搭の鐘は人々の見えないところで傷付いて、知らない内に製作者が望んだ帰りの合図を歪みに変えて、人々を引き寄せた。

「寂しくなっちゃったのかもしれませんね」
「うむ。私が引き寄せられたのも案外誰でも良かったんだろう。私は帰りたくないと思っていなかったし。はっ! 一般ピーポーだからか!」
「私は英里が居なくなった時凄く心配しましたけどね」
「心配してくれる人がいてくれはるってええことやで。案外それかもしれへんよ」
「それって?」
「『心配してくれる人が居る』ってところだろ。さて、降りるか」
「「「「えー」」」」
「……お前らなぁ」

 揃った声に流石に武彦は額に手を当てた。妹の零まで声を合わせたのだから頭痛も一押しだ。

「だって此処からの眺め綺麗ですしー」
「普段は上れへん場所やからちょっとくらいええやないの」
「鐘に関してはさり気無く私が幸福を分けておきますから」
「それはどういう意味ですか?」
「零さん、朱里は幸運体質なんだ。だからきっとこの鐘も――」

 英里は高い場所に吹く風を受けながらこの時計搭から見える楽しげな人々の声に僅かに笑みを宿した。

「そう、この鐘もきっとヒビを直したらまた造った者が望んだ『幸せの鐘』になる」

■■【scene6:物語の終焉】■■

 後日。
 草間 武彦の元には今度こそちゃんとしたお礼状が届いた。
 やはりあのヒビを修理するために一旦鐘を下ろしたら神隠しが止んだとの事。なら修理が終わったらまたあの幸せの鐘は鳴るだろう。
 またしても同封されていた無料入園チケットとフリーパスを見やりつつ、彼は言う。

「零、行くか?」
「はい、お兄さん」
「だが夏だしな……」
「もうっ! だれているのは身体に悪いですっ!」

 この間アイツらには内緒で散々遊んだだろう、とは口には出さず、武彦は携帯を取る。
 そして協力者達に連絡を取った。

「おい、先日の件だが、依頼人から入園チケットとフリーパスが届いてだな――」

 夏のテーマパークはまだまだ人を誘っている。
 『害のない神隠し』はいずれ風化する噂。
 だが、あの時計搭はきっとこれからも皆を見守り続けるだろう。その幸せな鐘の音で……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】

【登場NPC】
 草間 武彦(くさま たけひこ)
 草間 零(くさま れい)
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■         ライター通信          ■
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 調査お疲れ様でした!
 今回は以前全員顔を合わせていたメンバーでしたので、自己紹介無しで仲良く調査にGOです!
 しかし皆して発注文に「遊びつつ調査」「むしろ遊びたい」とさり気無く付け加えられている一文に「うん、遊んで下さい」とライター心がくすぐられました。なので遊びに結構力を注いでしまいましたが如何でしたでしょうか?

■工藤様
 まだ勇太様と呼べないこのへたれに発注有難うございました(礼)
 今回はテレパシーのシーンでライターの遊び心がくすぐられてしまいましたが、年頃の男の子が真っ赤になるような内容だと思ってください^^
 しかし能力の件もありますしジェットコースター強そうに見えるんですけど、うっかり弱い分類にしてしまいました。能力とコースターは別という事で!もしくは相当怖いコースターだったと思ってやって下さい(汗)

カテゴリー: 01工藤勇太, 蒼木裕WR(勇太編), 集合イベント型 |

どうか、彼らにも『安らぎ』を

「此処はね、一ヶ月前までは都市伝説を元にしたアトラクションだったんですよ」

 依頼者の男はあるテーマパークのそれなりに地位のある人間。
 草間興信所の所長、草間 武彦(くさま たけひこ)は「またか」といううんざり顔で案内された先の建物に男と共に並ぶ。そこには「立ち入り禁止」の札が掛けられており、明らかに閉鎖されて居る事が分かる。

「有名な都市伝説だと口裂け女とかいますよね。あれらを実際に体験してもらうんです。口裂け女なら『私綺麗?』とスタッフが呼びかけて、最後に特殊メイクで口が本当に裂けたような姿を晒して次の部屋まで早足で追いかけるんです。で、次の部屋に入るとまた別の都市伝説が始まるんですよ。そういう部屋を潜り抜けてきて、出口に到着して貰うっていうのがこのアトラクションのテーマだったんですよね」
「なるほどな。確かに建物自体は結構でっかい」
「最初は結構人気だったんですよね。開催時期が夏だったのもあったんで、恐怖体験したい人にはお手軽だったんで」
「だが問題が起きた、そうだな」

 武彦は煙草を口にし、白い煙を吐き出しながら依頼主に問う。男は素直にそれを認めるように一度頷いた。そして武彦を筆頭に、依頼をした人間達を閉鎖中とロープが張られた中へと呼び込んだ。

「一言で言うと、実際に本物が現れて伝説上と全く同じ行動を始めた、というのが記録されています」
「口裂け女なら本当に口を裂いた、と?」
「その時はお客さんがさすがにおかしいと抵抗をなさり、直にスタッフが駆けつけたので、腕に軽い怪我をなさった程度で済みましたが――実際に口を裂かれていたらと思うとぞっとします」
「その時の口裂け女役のスタッフは?」
「証言によると『次の客を待っていた』、と。実際監視モニターにも映っていないんですよ。あと客とその口裂け女を見たスタッフの証言だと口裂け女役のスタッフの衣裳とは違っていて古臭過ぎる印象が強かったそうです……今となって思う事は『想い』が集まりやすい場所だったのかもしれませんね」

 依頼主は何か思うところがあるのか、しみじみと口にした。
 やがて武彦にリストを渡す。そこに書かれているのは三つの都市伝説にまつわる話と館内マップ、それから失踪者リストだった。興信所でも渡したが念のためもう一度と言う事だろう。

「依頼時にお話した通り、現在存在している『本物』はこの三つです。後の部屋は当時のまま残されてはいますが、スタッフが居ませんので登場する事は有りません」
「了解」
「では鍵を開きます。心の準備をお願いしますね」

 男はこくっと唾を飲み、封印されたアトラクションを開く。
 見た目はただのコンクリートの塊のような建物。その扉に鍵を差し込み、ゆっくりと回し両開きのそれを開いた。中はまずチケット受付場で、どこにでもある風景。上を見れば『順路』と矢印の書かれた看板が見える。埃臭い点を除けばただのアトラクションの一部にしか見えない。だがその足元には確実にアトラクションではあってはならない光景が存在していた。

「スペアの鍵をお渡しします。あと電気も通してありますので通常の状態でしたら自動扉は開きますし、通路を歩く分には問題はないはずです」
「こいつらの他には何もいないんだな?」
「報告を聞く限りはそのはずです」
「――そうだな、一日。一日連絡がなかったら俺達も死んだと思え」
「……どうか、ご無事で」

 そう言って男を外に残し、武彦は協力者達と共に懐中電灯を手に歩き出す。
 呪われたアトラクションと言われ何人もの被害者を出したこの場所。武彦は既に協力者以外にもそれらしき気配を感じ取っている。ここには確かに存在しているのだ。

「伝説という名の楔を打たれて存在し続けるのはつらいでしょう。解放してあげる」

 そう口に出したのは腰まである黒髪をツインテールにまとめている小柄で華奢な少女、黒蝙蝠 スザク(くろこうもり すざく)。
 赤い瞳が印象的な少女で、裾がふんわりフレアの黒ワンピースを着たその手には一見普通のゴシック系デザインの日傘兼雨傘を持っているが、それこそ彼女の『相棒』。彼女が使用する事によって、傘は本来の能力を放つ。少しのことでは壊れず、魔法系攻撃に対し防御可能な特殊性が有り防御に強い。
 そして彼女の主な能力は黒の業火。肉体を持たないものでも全てを焼き尽くすその能力は大いに役立ってくれるだろう。

「……ひでぇ……」

 次いで現状の悲惨さに声を漏らしたのは高校生男子である、工藤 勇太(くどう ゆうた)。
 彼の能力はサイコキネシス、テレポート、テレパシーを応用した超能力。本来霊が苦手な彼だが、死人が多数出ているという事で武彦の依頼を受けた。その為か、現場を見て怒りで理性が飛びそうになり……。カタカタ……近くにあった小物が揺らめき、動く。その瞬間、武彦は振り返り勇太の眉間にチョップを食らわした。

「暴走するなよ」
「はぅ!? ご、ごめん……」
「でも、仕方ないですよ。この状態は確かに私でも怒りが湧きます」
「当然ね、どれだけ仕方の無い事だったとしても死人を出した時点で、それは生者にとって敵になってしまうんだから。――ヴィル、私達はサポートに回りましょう」
「そうだね、弥生。草間さん、私達は中間距離で支援に回ります。それで大丈夫でしょうか?」
「すまんな。ヴィルヘルムに弥生。夫婦で協力してくれるのは助かる。この中の誰よりもお前たちがとっさの時に連携が取れやすいからな」
「そこは任せて頂戴ね」

 男女のカップルが勇太の行動に同意しつつ、その後の動きに付いて武彦に言葉を掛ける。
 短い茶髪に緑の瞳を持ち、身体には適度に筋肉の付いたいかにも美男子と読んでも過言ではない男性の名はヴィルヘルム・ハスロ。
 彼はルーマニア人とスウェーデン人とのハーフで、顔立ちは三十一歳という年齢相応に整ったものである。そして実は真祖の吸血鬼を遠い先祖に持つ。先祖の血は大分薄く、吸血鬼の弱点が通用しない。人間と同じ様に歳を取り寿命もある。ゆえに、彼にしかない特殊能力も備わっていた。

 さてそんな彼の妻である黒髪美人の女性――弥生・ハスロ(やよい ハスロ)は意外にも純粋な人間である。
 血脈を辿ってもどこにも人外の存在は居ない。では彼女は何に秀でているのか。それは独学で身に着けた『魔術』である。元々素質が有った様で、魔力は高め。攻撃に特化した俗に言われる黒魔術タイプ。治療系は得意では無く、使用は可能だが時間が掛かる。今回確実に戦闘といわれているため、普段に比べて軽装だ。そして魔術を使う際に使う武器も当然衣服に仕込まれている。

「草間さん、第一の敵は口裂け女でしたわね。わたくし、この依頼を受けた際に窺っていた『敵』について多少は調べましたの」
「アリス?」
「口裂け女は『ポマード』という言葉が嫌いなんですって。口裂け女には色んな説が飛び交っていますけど、わたくしが調べた口裂け女は美容整形に失敗した女、というのが有力でしたわ。その口裂け女になった女性が整形手術を受けた際に手術した医師がつけていたポマードの匂いがきつくて顔を逸らしてしまった際にざくりとメスが耳元の方まで……それが原因で彼女は美容整形に失敗。後は皆様が知ってのとおり、精神が可笑しくなってしまった女性というのが有力のようですわ。実際『ポマード』という言葉が効くかどうかは分かりませんが、一応お伝えしておきますわよ」
「ああ、助かる」
「ちなみに『ポマード』というのは今で言うワックスのような整髪材だと思って下さいな」

 大和撫子を思わせる綺麗に切り揃えられた長い髪の毛を持つ十五歳の美少女――石神 アリス(いしがみ ありす)から与えられた情報に武彦もとい、他の皆は「なるほど」と彼女の言葉を心の中に刻み込む。事前調査をしておいてくれた事は確かに強いかもしれない。
 しかしアリスに尋ね聞いても説が多すぎて『弱点』までは分からなかったとの事。その言葉には仕方がないと皆苦味のある笑みを浮かべるだけ。
 彼女は微笑む。この先に自分が望む『可愛らしい物』が一つでもあれば面白いだろうと――そう黒い事を考えながら。

「んー、一人は既婚者。探偵さんはー……ん~、まぁ多めに見て八十点くらいにしておいてあげるわ♪ と、なるとあたしのストライクゾーン的には勇太クンかなぁ~」
「レイチェル。お前、何をしにきたんだ」
「男を漁り――ごほん、もちろん、報われない伝説の人達を助けによ!」
「前半の言葉はなんだ! しかも俺が八十点だと!?」
「さーって行くわよ♪」
「くっ……無視しやがって」

 最後の協力者、腰までのウェーブがかった金髪の可愛らしい外国人の十七歳の少女レイチェル・ナイトは武彦の声を無視し、久しぶりの戦闘に楽しそうな素振りを見せる。
 今日は戦闘という事で黒のボディスーツ、しかも胸元が大きく開いたそれは非常に魅惑的だ。彼女は己の首から下げていた銀のロザリオを両手でそっと持ち上げ、「悪を滅ぼす剣となれ アーメン」と祝福のキスをする。その瞬間、そのロザリオはレイピアへと変化し、彼女の手の中へと収まる。ヴァンパイアハンターであるレイチェルの祝福を受けたレイピアは悪しき者を討ち滅ぼす力を持っているのだ。

「準備はいいか、皆。何かいう事があるなら今のうちだ」
「そうね、あたしからちょっと良いかしら?」
「なんだ、スザク」
「伝説どおりなら、仕掛けてくるタイミングはわかりやすいけれど、その後の攻撃を読む必要があると思うの。訓練された動きではないもの……狂気という凶器が一番厄介ともいうわ。あたしはなるべく皆のサポートに回る。なるべく危険を最小限に抑えるようにしたいの。だからこちらは――そうね、前衛に立つ人達は特に冷静さを失わず、相手の動きの隙を見つけるのよ」
「――だ、そうだ。他には?」

 スザクの言葉に皆頷き、そして武彦の言葉には首を左右に振った。
 此処から先は決して引き返す事の出来ない都市伝説と言う異界の地。人々が勝手に生み出した伝説に縛られて動けない哀れな『伝説』達にどうか救いを――。

「草間さん、俺はいけるぜ!」
「では私達夫婦は約束どおり皆さんのサポート役へ。……弥生、無茶はしないように」
「ヴィル、貴方もね。私、貴方に何かあったら本気で潰しに掛かるわ」
「夫婦の絆は何よりも美しい。わたくしのコレクションには加えられないものですけれど」
「アリスチャン? コレクションってなぁに~?」
「なんでもありませんわ、レイチェルさん。さあ、行きましょう」
「ふふ、――さぁ、神の断罪を受けるがいいわ」

 前衛に武彦、レイチェル。中間に勇太、ヴィルヘルム、弥生。後衛にアリスとスザクが並ぶ。
 各々自分が得意とする武器を手にし、武彦が最後の確認をした。

 ―― そして第一の扉が開かれる。
 入り口より血塗れの筋が続いていたあってはならない『本物』へ至る道。

 第一のそこは最初の関門。
 再現された昭和染みた町並み、電柱、そして仄かな灯りの下「ソレ」は居た。長い黒髪に覆い隠され俯いた顔は表情こそ見えないがマスクをしている事は分かる。彼女は笑う。マスクの下からでも隠しきれない口端がグロテスクさを煽っていた。その足元には一人の作業員らしき人間の死体が転がっている。
 ああ、彼女は武彦達を見ると伝説通り例の言葉を口に出す。

『ねえ、あたし、きれい?』

 武彦は表情を戦闘モードへと変え、そしてタバコを床に捨てるとそれを踏み潰した。

■■■ 第一章:口裂け女 ■■■

 その言葉を聞いた瞬間、勇太の神経が切れた。
 それはもう盛大に、綺麗に、ぶちっと良い音が聞えるほどに。

「何が『綺麗?』だよ! こんだけ人殺しておいて……綺麗なわけあるか!」
「勇太!」
「勇太さん! 駄目です、そんな事を言っては」
「勇太君! 口裂け女の噂くらい知っているでしょう!? それは逆効果なの!」

 後ろから掛かった声に前衛に居た武彦、それから隣に居た弥生とヴィルヘルムが思わず叱咤の声を上げた。そして口裂け女は口を覆っていたマスクを取り外すとその耳付近まで裂けた醜い口を晒し、にぃたぁりと笑う。そして次の瞬間、武彦とレイチェルの傍に風が吹く。

「避けろ、勇太ッ!」
「――!!」

 高速移動してきた口裂け女が問いに唯一答えた勇太を、持っていた大きな調理用包丁で攻撃する。転移ではなく、高速移動。その速度に追いつけなかった前衛陣達は防ぐ事が出来ず、あっという間に勇太の方へと現れ、包丁を振るった。しかしそこはテレポート能力の持つ勇太の事。攻撃と同時に姿を消し、アリス、スザク組がいる場所まで一気に下がることに成功した。
 だが……。

「いってぇ……! マジで狂ってやがる!」
「お馬鹿さんね」
「流石に自業自得だわ――いい、わたくしが前に出ますわ」

 勇太は首を押さえ、そこに伝う血の温かさにぞっと悪寒が走る。
 皆の様子から言ってかすり傷程度ではあるだろうが、口裂け女の攻撃によって傷を負った勇太は、ぎりっと唇を噛んだ。冷静でいなさい、とスザクに言われていた事も咄嗟の感情によって吹き飛んでしまった事が情けない。

 一方、攻撃対象を失った口裂け女はすぐ近くに居た弥生とヴィルヘルムに狙いを定めた。
 彼らは何も口にはしていない。だがもはや『返答』は成された。グループ単位で現れた武彦達の返答――それは勇太の放った言葉である『綺麗ではない』と彼女は認識してしまったのだ。
 ならば次は夫婦を狙うべき。彼女はゆらりと身体を一瞬揺らしたかと思うと、またしても高速移動を開始し、夫婦へと斬りかかる。

「弥生ッ!!」
「ヴィル!?」
「――っ……! 見た目とは違って、随分と力がお強い、ですね」

 咄嗟にヴィルヘルムは妻の前に立ち、己の武器である拳銃を取り出して包丁を受け止めた。
 特殊な術式を施した拳銃は包丁によって斬られることはなく、力で現在拮抗した状態を保っている。ヴィルヘルムの後ろで庇われた形となった弥生はそんな夫の姿を見て、前に立とうとする。だが「出てはいけない!」と夫は叫ぶ。
 ならば魔術を使おうと弥生は決意する。だが、その前に聞えてきたのは少女の声。

「ポマード! ポマード!」
「アリス」
「ポマード! ポマード!」

 少女がヴィルヘルムと口裂け女の方へと近付きつつ、叫ぶ。
 そんなアリスを警護するかのようにスザクもまたゆっくりと夫婦の方へと足を進めた。

『――ぁ、……い、や……いやぁああ!』

 刹那、口裂け女は記憶を呼び起こされ、包丁を持ったまま己の両手を頭に寄せ強く左右に身体を振る。
 そしてその瞬間、前衛組が動いた。

「ちょーっと! 結局あんたも男な訳!? そうはさせないわよ!」
「弥生、ヴィルヘルム、援護を!」
「「了解」」
「俺だって、今度はやってやりますよっ」

 レイチェルが戦闘でも男性を狙う口裂け女に対して怒りを覚え、レイピアを振るう。実際は偶然男ばっかり攻撃になっただけだがそれでも彼女は許せなかったらしい。
 祝福を受けたレイピアの攻撃に気付いた口裂け女は包丁を無我夢中で振り回し、それを回避しようとする。あまりにも統一の取れていない動きにレイチェルも「ぐっ」と息を詰め、暴れだした口裂け女からやや距離を取った。

「哀れな女の人……良いわ。あたしが隙を作るからそれに合わせて皆攻撃して頂戴。――離れて!!」

 スザクはそう宣言する。
 そして黒の業火を皆と口裂け女との間に放つと、炙るような形で口裂け女の肌を焼く。その瞬間、まず口裂け女の足止めが必要だと感じた勇太は<精神汚染/サイコジャミング>で彼女の精神を揺さぶる。『ポマード』という言葉を恐ろしくなるようになったきっかけ……整形手術の時の記憶を呼び覚まさせ、彼女は一層悲愴な声を上げた。
 そして皆の一斉攻撃が開始する。
 まず弥生がナイフを使い、魔術で親指に魔方陣を浮かび上がらせるとそれを口裂け女の足元へと投げる。それは地面を揺らし、アスファルトを自由に操るとその足を完全に固定するために動いた。
 次いで、ヴィルヘルムと武彦の両方が、拳銃で心臓部や頭部を射抜く。特別仕様のそれらは当然もしもの時の為に銀の弾丸を詰めてあったが――消滅には至らない。

「やっぱり最後はあたしの出番ね! ――さあ、これでさようなら」

 無残にも人間の姿をしていたものが炎で炙られ肌は焼け落ち、更に精神を侵され、身体は魔術によって固定されてから拳銃で打ち抜かれ、最後にレイピアによってトドメを刺される。祝福を受けた剣は口裂け女の悲鳴も許さぬほど綺麗に首を斬りおとし、そしてやがて女の胴体は灰のように崩れていく。
 落ちた首だけが暫くの間その形を保っていたが、その前にアリスが立つ。そして彼女は魔力を込めた瞳で彼女の首を見つめ――首を石化させた。

「わたくしのコレクションには醜くて加えられませんわ。ごめんなさいね、口裂け女さん」

 そして彼女はその首を粉砕するため足で踏んだ。

■■■ 第二章:ベッドの下の男 ■■■

「私、治癒系は時間が掛かるから苦手なのよね」
「す、すみません、弥生さん」
「反省してる?」
「……はい」
「とりあえず綺麗に塞がったからこれで大丈夫。傷も残らないわよ」

 次の相手に行く前に一旦、何も出てこない部屋で勇太は弥生の治癒魔術を受け首の傷を治療してもらう。どうやら軽いと思っていたのだが、押さえていた手を外すと意外にも深かったらしい。あと僅かテレポート発動が遅ければどうなっていたか……そう考えると本気でぞっと出来る話である。

「ここは隙間女の部屋だったみたいね。ああ、でもかわいそうに。隙間に男の方がぐしゃりと……」
「隙間女も調べてますわ。ある一人暮らしの男が突然視線を感じるようになった。でもどこを探してみても視線の元は見当たらない。友人らに相談し、皆で探してみたところ見つかったそうですわ。……僅かな棚と壁との隙間の存在する薄っぺらい女性の姿を」
「うっわ、何それ。新しいストーカー方法?」
「一説によると『新しい彼女が出来たんだ』と言ってある男が友人を招待したところ、隙間女と仲良くしていたという話もあって、馬鹿らしくなりましたわ。草間さん、資料によると一体どちらがモチーフでしたの?」

 スザクが棚と壁の隙間に引き込まれ潰れている男性の姿を見つけ顔を悲しみに歪める。それに対してアリスは調べた情報をまたも口にし、イケメンを探す事に対して手段を選ばないレイチェルですら呆れた息を吐く。
 武彦は勇太と弥生の方を見てから女性三人の元へと行き、引き込まれた哀れな男に適当な布を被せる。流石に女性にこれ以上死体を見せるのはよくない。

「資料によると客が部屋に入ったら何者かの気配を表現するんだ。そこら辺を歩いているような、そっと潜んでいるような音を立ててな。で、客が怯え始めたらその棚の隙間から作りものの隙間女が姿を現してにたりと笑う、って仕組みだったらしい。前者の『視線を感じる』ところが恐怖ポイントだったようだな」
「引き込まれた男性はどなたなのでしょうか?」
「…………同業者だな。失踪者リストに同じ服の男が載ってる」
「私達もこうならないように気をつけましょう」

 武彦は資料を捲り、説明を終える。弥生の言葉に皆頷いた。
 休憩を終えると、自動扉で繋がっている通路を歩き、やがて三番目の部屋を通り抜け、四番目――『つまりベッドの下の男』の存在しているという部屋の前に立った。途中皆やるせない気持ちを抱えながら被害者の死体を見つけては布で隠し、逆に先陣者が隠したと思われる布のふくらみも見つけた。
 あと二つ。
 あと二つの伝説を葬り去れば解放される。

「ねえねえ、草間さん。俺考えがあるんですけど」
「なんだ、言うだけならタダだから言ってみろ」
「ベッドの下の男ってベッドの下にいるからそう名付けられたんすよね? じゃあ、いっそ相手が出てくる前にやっちゃうっていうのはどうでしょうかね」
「具体的には何かあるのか」
「じゃあ、今回は俺が前衛で、後の皆は後ろに下がってて貰っていいですか?」
「一人で平気なのか?」
「いや、っていうか俺も多分これで解決しちゃいそうな気がするんですよねぇ。上手くいけば」

 具合的な案を言わない彼にじーっと視線が集まるのは当然といえよう。
 だが、勇太はお願い! と両手を叩き合わせ下げた頭の前に持ってくる。どうするのが良いか武彦は一旦皆に聞くことにした。

「『ベッドの下の男』……この話、わたくしの趣味じゃないので任せますわ」

 これはアリスの言葉。

「うーん、別にやるだけやってみてもいいんじゃないかな~? 口裂け女より害は無さそうだし」

 これはレイチェルの言葉。

「あたしはサポートには回るわよ。さっきみたいな変な真似だけはしないでくれたらそれでいいんじゃないかしら」

 これはスザクの言葉。

「同じく、勇太さんのサポートには参ります。念のため後ろで待機ではなく前に出ましょうか。不意打ちという言葉がありますしね。いざとなれば庇います」

 これはヴィルヘルムの言葉。

「じゃあ私はヴィルヘルムの後ろで魔術の準備をするわ。可能であればベッドから出て来て貰う方法を考えようと思っていたんだけど、勇太君に何か考えがあるみたいだし、そっちが成功するなら何よりだと思うしね」

 これは弥生の言葉。
 全員の返答が出揃ったところで武彦も一度嘆息した後、勇太の頭をぐしゃりと撫でた。

「ヴィルヘルムと俺との間に居ろ。俺も前衛に出る」
「よっしゃ!」

 それなりに快い返事に勇太はガッツポーズを決めると、武彦とヴィルヘルムの間に並び、女性陣はその後ろからサポートと言う形で陣営を変えた。
 やがてシュンッと音を立てながら開く自動扉。
 開かれた第四の扉。
 誰かの部屋の中を再現されたそこは特に広くもなく、女性陣は扉付近で待機する事となる。

『……う、ぁ……ぁ』

 聞えてくる呻き声。
 本来のベッドの下の男の話では登場人物は多種多様だけど、共通している事がある。それは部屋の住人が友人とお泊り会を開いた時、その友人が「ねえ、ちょっと買い物に行こう!」と誘うのだ。夜中だったため部屋の持ち主は拒否するが、それでも友人は譲らない。やがて外に出てから、友人は真っ青な顔で言うのだ。
 「今、ベッドの下で斧っぽいものをもった男が潜んでいるのを見た」……と。
 そして警察に駆け込んで捕まるオチも有り、殺人は未然に塞がれたという都市伝説だ。

 だがアトラクションではそんな誰もがベッドの下を覗き込んだりなどしない。特にこの都市伝説を知らなければなおさらの事である。だから音を立てて気を引くように仕向けた。
 部屋の中を見るだけなら誰も居ない。
 探せ、探せ、音の発信源を。
 そして気づけ気づけ、ベッドの下の男を。

「……俺ね、思ったんですよ。ベッドの下にいるって分ってるならベッドごと押し潰してみたらいいんじゃね? って」
「え?」
「は?」
「と、いうわけで……えいっ!」

 どきどきしながら勇太は目を伏せ、己が出せる最大限の力――サイコキネシスでベッドを潰しにかかる。ベキベキと木製で出来たベッドが悲鳴を上げ一気に圧力を受けて潰れていく。そして。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 ベキ、バキ、ボキ。
 嫌な音が響き、やがてベッドと床が密着する頃、男の悲鳴が上がる。だが男とて簡単に潰されたくはない。足掻きに足掻いて外に出ようと手をべた、べたっ! と叩くようにベッドから出し、自分の身体を引き出そうとする。そしてもう一方の手が斧を掴んだまま出てきた時、ハッと皆意識を戻し、サポートに入った。
 確かに勇太の言う通り、男にベッドの下から出て来て貰う必要はない。むしろベッドの下にいるのならば相手自ら戦闘フィールドを狭めているのだから好都合と言うもの。今、男は手と……もうすぐ頭が見えるであろう所まで頑張って出てこようとしている。
 出てきてしまえば戦闘フィールドが広がってしまう。それよりかは――。

「魔術で焼くわ! 三人とも熱いから下がって!!」
「同じく――黒の業火!!」

 弥生は今度は人差し指に魔方陣を出現させ、炎を竜の如くベッドへと襲い掛ける。スザクもまた己の黒い炎を使い肉体を持たない『彼』を焼く。
 武彦とヴィルヘルムはサイコキネシスでベッドを潰す事に集中している勇太の両脇を片方ずつ掴み、引き摺って後退する。狭い部屋の中で轟々と勢い良く燃えるベッドと……哀れな殺人鬼。やがて暴れるのも止め、手が動かなくなった頃武彦は勇太の頬を叩く。それでやっと勇太は集中を途切れさせ正気を取り戻すと、はぁっと息を吐き出し、そして笑みを浮かべVサインを突きつける。

「ほら、成功したでしょ!」
「まあな。良くやった」
「お疲れ様ね。今回は怪我人もいないし次の部屋に進みましょう? 正直、あまりこの肉の焦げたような匂いを嗅ぐのは嫌ですもの」

 勇太は武彦に褒められ満面の笑みを浮かべる。
 アリスは鼻と口元を押さえながらもう此処に用はないとばかりに先へと進んでしまった。その意見には皆賛成で、ヴィルヘルムは弥生の疲労を多少気にしながら彼女の肩に腕を回しつつ先を行く。スザクは燃えカスとなり消えた男の存在に対して「お疲れ様」と小さく呟いた。
 さて最後に残ったレイチェルもまた皆の後に続く。しかし自動扉が閉まる瞬間、彼女は僅かに振り返り、哀れみの目で今はもう居ない男に一言だけ言った。

「あんたそんなだから女にモテなかったんじゃないの?」

■■■ 第三章:メリーさん ■■■

 一階の部屋をもう一つ分だけ通り抜ければ階段が現れる。
 武彦は資料を取り出し、皆と共に通路の再確認をしてから先陣を切った。後はもう二階に上がり、最後の部屋に行くだけだ。途中現れる数々の死体には目もくれず一直線にその部屋へと向かう。

 そして辿り着いた最後の扉の前。
 『メリーさん』の部屋だ。
 皆が決して辿り着けなかった最後の伝説。このアトラクションの中で最強の伝説だったのか、それとも彼女自身まで辿り着ける人物が居なかったのか……それは分からない。

「メリーさんに関してはわたくしが興味あります。他に興味がある方は?」

 アリスが皆に声を掛け、ふふっと笑う。
 皆暫し考えた後、勇太がちょっと遠慮気味に手を上げた。

「ではわたくしと勇太さんで中に入ります。皆様はサポートを宜しくお願い致しますね」

 さあ、行きましょうとアリスが中に入ると同時に勇太もまた中へと入る。
 開かれた扉の向こう側には玄関を模した廊下があり、自分達側がリビングから見ているような光景になっていた。
 そして棚が一つ玄関前に有り、その上に家庭用電話が置かれている。

 メリーさん。
 それは少女が引越しの際、昔から大事にしていた外国製人形「メリー」を捨てたところから始まる話。
 ある日捨てた少女の元に電話が掛かってくる。「あたしメリーさん、今××にいるの」と。電話は何度も掛かってくる。そしてその度に今、少女が住んでいる場所へと近付いてきている事を告げられ少女は怯えた。やがてまた電話が。取らずにはいられない電話に少女はまた聞いてしまう。「あたしメリーさん。今あなたのお家の前にいるの」少女は泣き出しながら扉を開くが誰も居ない。やっぱり悪戯電話だったんだとほっとしたのもつかの間、またしても電話が。
 そして――。

『あたしメリーさん。今貴方の後ろにいるわ』

「……この手口、狙った男を逃がさない為に使えそうかしら……」
「レイチェル!!」
「いやん! だって結構これ面白い話じゃない? 探偵さんだってそこまでして追いかけてくれる女の子いたら胸きゅんしちゃわない!?」
「ストーカーの域だろうが!」

 レイチェルと武彦の会話に皆思わず脱力してしまう。
 メリーさんの話で何が怖いかと言うと、この話には『オチがない』のである。少女が一体どうなったのか、人形がどうやって少女の住まいを突き止めたのか。何も続きがないのである。

 不意に着信音が鳴った。
 それはもちろん棚の上の電話からだ。勇太とアリスは顔を見合わせるとまず勇太が受話器を取り、そしてそれを耳に当てる。

『あたしメリーさん、今、――
「……お掛けになった電話は現在使われておりません」
――にいるの。うふふふふ!』

 プチ。
 そこで切れてしまい、後はツーツーツーと虚しい音が響くだけ。

「しまった! 俺が喋ったせいで今どこにいるのか聞こえなかった!!」
「もうあっちに行っておいて下さい」

 勇太は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
 アリスはふぅっと呆れた息を吐き出し、勇太を他の皆のところへと行くよう指先で突いた。
 そしてまたしても電話が鳴り出す。今度はアリスがきちんと皆に目配せした後、静かに受話器を耳に当てた。

「はい」
『あたしメリーさん。今やっと一階にやってきたわ、待っててね。もうすぐよ』

 プチ。
 ツーツーツー。

「今、一階に居るそうですよ。普通にマンションを舞台にしているのか、それともこのアトラクション自体を言っているのかは分かりませんでしたが……」
「メリーさんは最後には少女の後ろに出現するんだよな。アリスの後ろに出現した時が攻撃時か?」
「……草間さん。私の能力に暗示があるのですが、効くかどうか掛けてみましょうか。暗示でアリスさんではないものをアリスさんに見せてどう行動するのか見るというのはどうでしょう」
「あ、また掛かってきました。……取りますね」

『あたしメリーさん。今ね、口裂け女の部屋を通り過ぎたわ。なにあれ、酷い』

 プチ。ツーツーツー。

「口裂け女の部屋を通り過ぎたらしいです」
「アトラクションを舞台にしているのね。と、いう事はあたし達の後ろに現れる可能性があるってことになるわ」

 アリスの報告に気付いた事を口にしたのはスザク。
 皆一斉に後方へと視線を向けるがそこにはまだ誰の人影もなし。

「作戦を変えよう。メリーさんは俺達の後ろにも現れる可能性がある事が判明した。という事は背中合わせになっておいた方が安全そうだ」
「その方が良いかもしれないわ。問題はメリーさんが一体どこを『玄関』にするかよね」
「弥生? それはどういう意味かな」
「ヴィル、あのね。メリーさんはもちろん最後には少女の後ろ……多分アリスちゃんの後ろに現れると思うの。でもその前にメリーさんは『今玄関にいるわ』と言う電話を絶対に鳴らすの」
「確かに、それは絶対に変わらない話ですよね。メリーさんの話って派生も多いんですけど、絶対に玄関に来た事は伝えてる気がするよなぁ」
「それはあそこにあるアトラクションの中の玄関か。それともあたし達が今立っているこの扉なのかどっちなのかしら。興味あるわ」

 弥生の意見に皆眉根を寄せる。
 ルート的には自分たちの居場所が扉だ。しかしアトラクション的には自分達の向こう側にある扉こそが『玄関』。メリーさんはどっちから来るのか。
 スザクも相棒の傘を握り締めながら少し緊張する。今までで一番時間の掛かる戦闘で、気が疲れると正直思う。そしてその分恐怖も増幅する。

「……掛かってきました。取ります」

『あたしメリーさん。今ベッドの下でいつも隠れた男の部屋を通り過ぎて階段を上っているの。ねえ、どうして燃やしちゃったの? あの人まだ誰も殺してなかったのに』

 プチ。ツーツーツー。

「階段を上っているそうです。あとあのベッドの下の男、まだ誰も殺してなかったそうですよ。メリーさん曰く、ですが」

 やってくる。
 メリーさんがやってくる。
 自分達と同じ道筋を辿ってやってくる。もしかしたら、もうすぐその姿を現すのかもしれない。それとも道筋を飛ばしてアリスの後ろへ?
 やってくる。
 メリーさんがやってくる。
 何をしにやってくる?
 少女を探して、持ち主の少女に会って、それから、それから彼女は何をする?
 ああ、またもう一回電話が鳴った。

『あたしメリーさん。沢山の人でいっぱいだから通れない。もう貴方の傍に行くね』
「あたしメリーさん。沢山の人でいっぱいだから通れない。もう貴方の傍に行くね――と」

 アリスは聞いたままを復唱し、そして受話器を下ろした。
 沢山の人でいっぱいだから通れない。それは武彦達の事を指しているのなら――。

「アリスさんが危ないですわ!」
「アリスちゃん次の電話は取らないで!」

 だがアリスは人差し指を一本立て唇に乗せる。
 その唇が声無き音で紡いだのは「 だ い じ ょ う ぶ 」。
 そしてスカートのポケットからコンパクトミラーを取り出すと自分の顔が良く見えるように、……否、その後ろがよく見えるように角度を変えた。
 さあ、おいで。
 やっておいで。
 メリーさんがやってくる。
 やってくる。
 もうすぐそこまで、――少女の後ろまで。
 さあ、最後の電話を鳴らして彼女はやってくる。

『あたしメリーさん。今貴方の後ろにいるの』
「あたし、アリスと言うの。今、貴方を……わたくしのものにしちゃいますわ」
『――え、ぁ……ぁぁああああ!!!』

 ピキ、ピキピキピキ……!!
 アリスの後ろに瞬間的に現れた外国製人形メリー。彼女はアリスの石化の瞳である魔眼に鏡越しで見つめられ、身体を石に変えていく。その光景を見ていた武彦達は慌てて中へと突入した。

「アリス!」
「アリスちゃん!」
「おい、大丈夫なのか……」
「どこも怪我とかなにか可笑しい事を吹き込まれたりとかしなかったかい?」

 口々にアリスに声を掛け、そしてヴィルヘルムがその肩に手をかけ自分達の方へと向けようとする。しかし彼女は「大丈夫ですわ」と一言言うと、石化して今は廊下に落ちてしまっているメリーさんに近付くとそれはそれは愛しげに微笑みながらそれを抱いた。

「こう言うかわいい子がわたくしの趣味なの」

 メリーさん、つーかまえた。

■■■ 終章:そして出口へ ■■■

 メリーさんの部屋を出るとそこは出口と書かれた階段に繋がっていた。
 武器を仕舞った後皆で降り切ると、武彦が携帯で連絡したせいか慌てて依頼人の男がアトラクション出口まで掛けてくるのが見える。その後は二人で今回の件に付いて色々話した後、依頼人の男が勢い良くお礼の言葉を述べているのが見えた。
 テーマパーク設置の時計を見ればまだ十五時くらいで、意外にも時間が経っていない事が分かってびっくりした。

「勇太クン、勇太クン! 本当に首の傷大丈夫!?」
「大丈夫だって! ホントにあれは俺が悪かったんだから!」
「あーん、あたし本当に心配したんだからー!」
「ご、ごめんって! ほら、もう依頼も終わったし、まだ閉園まで時間があるし遊ぼうぜ!」
「はっ、それってデートのお誘い!? よっしゃー!」
「え、デート?」

 勇太的には「皆で遊んで帰ろうぜ」の意味だったのだが、レイチェルには二人きりだと思われたらしい。ついでに「あれ? なぜ俺は女の子の腕に掴まれて走り出しているのでしょうか」と勇太は思ったとか。
 でもまあいいかと彼は思う。皆無事だった――それが一番嬉しくて。

「弥生。身体に負担は掛かっていないかい? 今回結構魔術を使っていただろう?」
「ヴィル……大丈夫よ。一番疲れたのは勇太君じゃないかしら。ベッドの下の男の時のサイコキネシスは凄かったわね」
「彼は若いし、体力もあるから良いんだよ。今回は私はあまり役に立てなかったな。草間さんに申し訳ない」
「何言ってるの。口裂け女の時に私を庇ってくれたヴィルはとっても格好良かったわ」
「……弥生」
「ね、私達もデートに行きましょ。遊園地なんてそう滅多に来れない事だし」
「そうだね。ゆっくりと残りの時間を楽しもうか」

 夫婦は夫婦で幸せそうに会話をし、武彦に別れの言葉を告げるとそのまま別のアトラクションへと姿を消す。彼らは一体どんな時間を過ごすのだろうか。

「あなたはどうするの?」
「ふふ、わたくしはこの手に入れたばかりの可愛い可愛い子を愛でに帰ります。そちらは?」
「そうね、あたしも今回はちょっと疲れたからもう帰ろうと思うわ。途中まで一緒に帰らない? なんなら喫茶店でお茶でもしましょ」
「良いですわね。今日の感想でも語りながら」

 スザクの言葉にアリスが乗る。
 武彦にお別れの挨拶をしてから彼女達も去った。

―― 寂しい。
―― 辛い。
―― 終わらせて。
―― 鎖を解き放って。
―― どうか。
―― どうか。

「任務終了。――さて、俺もまたタバコでも買って興信所に戻るかな」

―― どうか、彼らにも『安らぎ』を。

 武彦は残り一本になっていたタバコの箱をぐしゃりと握り潰すと近くにあったゴミ箱の中にぽいっと捨てた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7919 / 黒蝙蝠・スザク (くろこうもり・すざく) / 女 / 16歳 / 無職】
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ) / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】
【8519 / レイチェル・ナイト / 女 / 17歳 / ヴァンパイアハンター】
【7348 / 石神・アリス (いしがみ・ありす) / 女 / 15歳 / 学生(裏社会の商人)】

【登場NPC】
 草間武彦(くさまたけひこ)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、参加有難うございました!
 三つの戦闘という事でこうなりましたがいかがでしたでしょうか?
 皆様の動きを統合した結果こんな風に解決していく形になりました。怪我人は勇太様のみ、でも弥生様に治癒してもらって問題なしという結果です。

■工藤様
 いつもお世話になっております!
 今回は失敗しつつも、でもベッドの下の男では大活躍したりと相変わらずの工藤様らしく(笑)唯一の怪我人となってしまいましたが、その点は戦闘という事でご理解下さい。
 また遊びに来てやってくださいませー^^

カテゴリー: 01工藤勇太, 蒼木裕WR(勇太編), 集合イベント型 |

暑中見舞いに不思議な蜜を~草間興信所編

「暑中見舞いにアンティークショップの店主、碧摩 蓮(へきまれん)からこれが届いた」

 草間 武彦(くさま たけひこ)はテーブルの上に子供の頭ほどの瓶をどんっと置く。
 妹の草間 零(くさま れい)は兄の手元にあるそれを不思議そうに眺める。武彦は瓶の頭に手を置きながらはぁあと深いため息を吐いた。

「これは蓮からの『暑中見舞い』という名の依頼だ」
「どんな依頼ですか?」
「一緒に届けられたメモによるとこれはカキ氷の蜜らしい。だが蜜を氷に掛けた者の感情に反応して味や色を変える特殊な『蜜』だということだ」
「楽しそうな蜜じゃないですか。それが何か問題でもあるんですか?」
「メモによるとこの蜜は大抵は鮮やかな色に変わるし味も普通に甘いらしい。だがちょっとでも心に何かしこりを抱えていると凄く不味くなる……ということだ。色も黒だったりヘドロ色だったり……うえ、見るからに不味そうだな」

 武彦は想像した色と味に一瞬にして表情を不快なものに変える。そんな兄の様子に零もまた眉間に皺を寄せ苦笑した。

「今回の依頼はその変化に関することですか?」
「そう。本来は鮮やかな色に変わるだけのものだったらしい。だがいつの間にかとんでもない変化もし始めた……と言うことだ。そんなもの店じゃ使えないってんで蓮のところに回ってきたらしい」
「じゃあ何か憑いてしまったか、この蜜自体が何か嫌なことがあったのかもしれませんね」
「ちなみに変化する蜜はこれだけだそうだ。つまり、謎が解けなかった場合はこの蜜を全部消化しろと」
「? 排水溝に流しちゃ駄目ですか?」
「ご丁寧に『PS.ゴミ捨て禁止。捨てた場合は』となっている」
「あら、捨てた場合何が起こるか書いてませんね……と、いうことは……」

 二人で蓮の怪しげな微笑みを思い浮かべる。
 捨てた場合何が起こるかは分からないが、とにかく何か起こる……かもしれない。蜜によるものでなくとも、蓮から何かが……。
 零はぽんと兄の肩を叩く。

「蜜の量も結構多いことですし、もういっそ皆に声かけて食べちゃいましょうよ。ね? ね?」

■■■■■

「改めて自己紹介から始めるか。こっちの男子高校生が工藤 勇太(くどう ゆうた)。そっちの女の子がアリア・ジェラーティだ」
「よろしくな!」
「勇太ちゃんね。よろしくお願いします」
「もっと詳しい話は他の連中が集まった時にするから今は雑談でもして待ってろ」

 武彦に促され蜜を運んできた二人は顔を見合わせ挨拶をする。そう言えば後で聞けばいいかと考えていたため二人は互いの名前も知らなかったのである。後は自分達で紹介しあってろと二人を捨て置き、武彦は携帯の登録から今回の一件で協力してくれそうな人間を幾つかピックアップし、電話を掛ける。何人かには「面白そうだから行く」と言われ、何人かには「また変な話だろ」と危険察知されるが結局数人「カキ氷を奢る」という名目の元集まってくれる事になった。
 さて、一方零から貰った麦茶を飲んでいるアリアと勇太はというと。

「勇太ちゃん。何か悩みとかあるの?」
「え」
「だってここに配達する時に試したあのカキ氷の絵の具味……」
「ぐさ。そ、そりゃあ、この暑さだもん! 蓮さんからの依頼だったんだもん! 考えるところは幾らだってあるってっ。蓮さんの依頼でろくな目にあったことなかったんだよ、俺!」
「……暑い? じゃあ冷やす?」
「冷やす、って――」
「ちょっと待ったー! アリア、それはストップだ!!」

 勇太の言葉を聞き、素直に暑いから冷やそうと思った氷の女王を先祖に持つといわれている娘、アリア。その能力は冷気を操り思い描いた氷雪を作り出したり、手で直接触れたものを氷に変えたりすること。そんな彼女は文字通り勇太の頭を「冷やそう」とおでこに指先をとんっと小突いて……。
 カッキーン!
 此処に見事な高校生男子の氷像が出来上がり。

「遅かったか。零! お湯!」
「は、はい、兄さん。熱い方がいいですか? それともぬるい方がいいですか!?」
「もう熱湯で!」
「わかりましたぁ~!!」
「さてさて、邪魔すんでー。って、なんやこの部屋意外と涼しいなぁ。……ってこれなんや」
「セレシュ。それ生き物だから好奇心から突きすぎて壊すなよ」
「ようわからへんけど、かちこちやなぁ。あはは!」
「だから突くなって!」

 興信所を訪れたのはセレシュ・ウィーラー。
 以前興信所にて個人的な依頼をし、その件以降武彦と縁のある金髪ウェーブの女性である。見た目は十五歳程度と幼めだが、実年齢は二十一歳。本人は微妙にそこら辺がたまーにネックだったりするが基本的に好奇心旺盛で人懐っこい女性だ。今も凍った勇太が面白く、まだ溶けていない彼を指先でつんつん突いて遊んでいる。
 ふと彼女は零やアリアの姿を見て「ふむ」と頷く。零やアリアもまた「あれ?」という顔をするがそこはそこ、「人外の存在」である彼女達は無言で分かり合う。この世界では聞かれない限りは……能力を見せ付けない限りは「人間のふりをしている事」が一番だと皆知っているからだ。
 ちなみにセレシュの場合は異世界から来たゴルゴーンで、本来の姿は蛇状の髪と黄金の翼を持っている。

「こんにちは、武彦さん。キミの連絡を受けて夫婦でお邪魔する予定だったんだけど、旦那の方は仕事が急に入っちゃって来れなくなっちゃった」
「相変わらず忙しいな」
「でも彼も招待を受けた事に関しては喜んでいたから御礼を言っておいて欲しいって」
「今度また機会があればカキ氷じゃなく、もう少し大人の付き合いをしたいもんだ」
「……私のなんだからあげないわよ?」
「いるか! そういう意味じゃないって分かってて言ってるだろう。弥生」
「あはは、まあね。ところで、これは一体どういう状況なのかしら? 私の目の前には凍った男の子がいるわけだけど」
「――もう触れてやるな……」

 やってきたのは長い黒髪の美しい人妻、弥生 ハスロ(やよい はすろ)。
 武彦は夫婦で誘いを掛けたのだが、仕事の忙しい旦那は本日は不参加らしい。てっきり落ち込んでいるかと思えば、旦那の仕事に理解のある弥生は元気そうでなによりだと武彦は思った。彼女もまた勇太の方へと近付き、不思議な目でそれを観察している。
 さて当の原因であるアリアが純粋な目で皆を見る。
 勇太が「暑い」と言ったし、ちょっとぐだぐだ悩んでいたから「頭を冷やそう」とした結果がこれだ。間違ったかな? と心の中で思うが、否定的な意見が彼女に成されないため今は麦茶を啜っているのみである。
 一部の魔力を辿れる者達――主にセレシュと弥生は既に原因がこの少女であると分かっているだけあって、二人顔を見合わせて苦笑した。

「すみませーん。面白そうな気配を感じて参上しました」
「ついでに家庭菜園でいつも通り作りすぎた野菜をお裾分けに来た」
「帰ってくれ! あ、野菜は貰う!」
「え、ちょっとちょっと、一応依頼に来たんですけど」
「その依頼の為の賄賂……ごほん、野菜もあるんだが」
「それで?」
「いえ、何か面白そうな事になっているのでもう依頼は良いかなーって」
「いや、私は別に気になってないぞ、そこの奥の何かなんて、何も、うん。今日は朱里の依頼の為に来たんだから」
「ちなみにその依頼とは?」
「「噂に名高い怪奇探……」」
「今日は身内でカキ氷大会に付き休業中だ! 帰ってくれ! そしてそういう怪奇系依頼はお断りだ!」
「えー、そんな。休業中なんて外に札とか出てなかったのに」
「休みの日を調べてきたんだが、可笑しいな」
「零、今すぐ張り紙!」
「は、はい。兄さん、手書きでいいですよね!」

 ひょいっと扉を開いて現れたのは褐色肌の何か癒し系オーラたっぷりな十代後半ほどの少年。アジア系の民族系の衣装を纏い、顔にはペイント風のメイクをしている。
 そしてもう一人、金髪の髪の毛を三つ編みにし、目の下には雫マークが入ったペイントをしているゴスロリ少女というなんとも不思議な組み合わせが登場した。しかもその手には野菜。そう、彼女が口にした通り店で売っているものではなく明らかに自作であろう野菜が袋に詰められ抱きかかえられている。
 ふとセレシュと弥生がじっと少年の方を見る。彼はにっこりと笑顔を返した。

「キミ、どこかで見たことあるような気がするんだけど」
「そうですね、よく言われます」
「ああ、なんやったかな。どっかのアイドルグループの一人に似てんや」
「『Mist』よ。雑誌とかでも出てるグループよね。そこの……アッシュかしら。その彼に似てるんだわ」
「はは、よく言われますけど他人のそら似ですよ」
「世の中には似た顔が三つはあるって言うしね」
「なんや、本人ちゃうんかいな。本人やったらサイン書いてもらって知り合いに自慢したろと思たのに」
「それは別人ですから諦めて下さいね。私の名は鬼田 朱里(きだ しゅり)と申します。以後お見知りおきを」
「ちなみに私は人形屋 英里(ひとかたや えいり)と言う。朱里はよく人違いされてな、私も困っているんだ」
「ははは、すみません」

 ――と、少年は軽く頭を下げて言うものの、実は彼こそが『Mist』のメンバー、「アッシュ」である。
 舞台メイクとは違って今はペイントメイクをしているため印象がまるで違う。彼の言葉に皆「他人の空似」であると納得すると、朱里はすいっと人差し指を持ち上げ氷像もとい勇太を指差した。そして今までの経緯を全く知らない彼は爆弾を投下する。

「ところでカキ氷大会って――その男の子の氷を削って食べるんですか?」
「他に氷も見当たらんし、そうだろう。そうに決まっている」
「「え」」

 まさか。
 いやいや、そんな。
 確かにここまで招待した人数を満足させるだけの氷なんて普通の冷蔵庫じゃ中々作れないけど。
 むしろ武彦がカキ氷用の氷を用意しているなんて思えない。そうなるとセレシュと弥生の視線は零へと無意識に向く。やや遅れて朱里と英里もまたつられるように彼女へと視線を向けた。ふぅっと額の汗を拭いながら零は外の扉に紙を貼り終え、再びキッチンへと戻りお湯の状態を確かめに入る。
 そしてセレシュと弥生はギギギギギ、と錆びた人形のように首を動かし、視線は武彦へ。朱里も英里も面白そう! とばかりに彼に目を向ける。
 そして皆の注目を集めた武彦はこめかみに青筋を浮かせ、今にも怒りの感情のまま皆に怒号を放とうとしたが。

「私、氷なら、いくらでも作れるの……」

 ほら、とアリアが机の上に氷を作ってみせる。その見事な氷結能力に皆ほうっと胸を撫で下ろした。特に自分が人外であることを隠す気のない彼女はその後兎型、熊型など様々な氷像を作って皆の目を楽しませ、遊ぶ。
 しかし忘れてはいけない、『彼』の存在を。

―― れれれれれ、零さん、早くお湯ー!!

「工藤さん! お湯です! はやく戻ってきて下さいー!!」

 零に熱湯を浴びせられ、彼が無事自分を取り戻したのは割とすぐの事だったとか。

■■■■■

「――――と、言うわけで蜜の調査依頼が本来の目的だ。だが別に食べて消化しても依頼達成と言う事らしいんでな。それで皆を呼んだんだ」
「ふうん、そうなんだ……アリアびっくり」
「なんやねんな。騙しかいな!」
「騙してない。氷にかけて食べても問題ないんだからな。俺は嘘は言っていない」
「危うく変なものを食べさせられるところやったわ。危ない危ない」

 セレシュは命拾いをしたと言う事でやれやれと肩まで手を上げ首を振る。
 そしてその後の彼女の対応はとても早かった。まず武彦に経緯をしっかり聞き、彼が殆ど何も知らないと知ると、零に頼み蜜の一部を分けてもらうように頼んだ。慎重派な彼女は幾ら面白そうな蜜と言えど、原因が分からないうちは口にしたくないというのが本音である。
 そして携帯を取り出すとアンティークショップ・レンの店主、碧摩 蓮(へきま れん)へと連絡を取り始める。蜜の来歴や材料、それに途中で何かしら特殊能力を持つ人物に渡っていないかなど調べるためだ。
 だが中々相手が応答してくれない。皆に気を使い、玄関先で携帯を掛け続ける彼女の姿に皆「頑張れ!」と心の中で応援したとか。

 アリアは皆が氷を作る度に嬉しそうにするので、自分もまた嬉しくなり、零が用意してくれた皿の上にどんどん氷を作っていく。冷房を掛けなくても冷えていく室内に皆心和ませながら少女の氷作りを見守った。

「……味が悪いのは賞味期限の問題……という冗談はおいといて。……多分人の心の問題じゃないですかね? 昨今では心の清い人が少なくなったとか……うんうん」
「でもそれじゃあ、理由にならないわ。それだと他の蜜も同じように変化しないと可笑しいでしょう? 他の何かが原因かもしれないわね」
「私は面白そうなんで、その蜜食べてみたいですねぇ。調査にはあんまり興味はないです。だって食べたらいいんでしょ。食べて減らしてOKなら楽じゃないですか」
「わ、私はただの一般ピーポーだからな! そ、そんな調査とかは……むしろカキ氷の方を食べる方が気になる」
「英里はともかく朱里、だったか。お前何故居ついた」
「依頼をしたら追い出されそうですけど、カキ氷大会なら追い出されずに済むし、むしろ面白そうなので!」
「野菜も受け取っただろ」
「――……勝手にしろ」
「あ、草間さんが諦めた」
「こいつが作る野菜は本当に美味いんだ。何より家計が助かる」
「草間さん……俺、なんか情けないっす」

 アリアの作る氷に癒しを頂きながら勇太、弥生、朱里、英里は蜜を見つめながら軽く論議する。……とは言っても朱里の場合はもはや調査よりカキ氷を食べる事の方に心をわくわくさせているよう。英里も興味がないふりをしつつも、明らかにちらっちらっと視線を向けているところから隠し切れない好奇心が垣間見えていた。

「まぁ、マジな話、人の感情に反応して変化する蜜って事なら、テレパシーで何か探れるかも? ……なんならやってみます?」
「そう言えば昔何かの本で≪食べ物にも妖精が宿る≫と書いて有ったわね。日本で言う付喪神的なものなら魔力に反応するかしら」
「勇太、弥生。調査するなら勝手にしろ。どっちにしてもどんどん氷は出来ていくからついでに食べていけ」
「アリア、頑張ってるの」
「わあ、凄いですね。こんなにも山盛りの氷、削る方も大変そうです」
「冷房がいらんな。これは素晴らしい、機械を壊さずに済む」
「いっそ、朱里。英里。お前達が削ってくれ」
「えー……自分で食べる分だけ削っていいですか?」
「女にさせるか、普通」
「いいから削れ! 人数が人数なんだ。溶けるだろ!」
「まあ、こうして無事仲間に入れてもらっているわけですし、頑張りますか」
「アリアもっと氷作った方がいい? 沢山? いっぱい?」
「今はもう良い。あと次つくる時はこれくらいの大きさで作ってくれると私は嬉しい」
「うん、英里ちゃん分かった。これくらい、ね」

 残念ながら興信所に存在するカキ氷機は家庭用のもので手動である。
 朱里と英里はアリアが作ってくれた氷を適度にアイスピックなどで細かくしつつ、それを機械に放り込みじゃりじゃりと削っていく。削れた氷を器に溜めるとアリアはまず武彦へと差し出した。

「武彦ちゃん、一番に食べるといいと思うの」
「俺がか?」
「そうしたら皆納得すると思う。私と勇太ちゃん、蜜の変化知ってるけど他の皆知らないし」
「そうですねぇ。俺もその時にテレパシー能力使ってみますよ。ただし……こちらもタダって訳には行きませんねぇ」
「ああ? 何を要求してくる気だ、お前」
「良くぞ聞いてくれました!」

 ばばんっと無駄な効果音が付きそうなほど胸を張りながら先程まで氷付けだった勇太は今はタオルに包まれながら言う。大胆不敵に笑いながら、自分が蜜を試した時に絵の具のような味だった事を棚に上げ、それからびしっと武彦に向かって指先を突きつけた。

「俺への依頼の報酬、それは! 俺の夏休みの宿題を代筆――いだぁっ!!」
「お前はどこぞの小学生か」
「冗談通じないなぁ、もう!」

 武彦に拳骨を落され、勇太は渋々と行動を移す事にした。
 そんな二人のやり取りをおかしそうに見ていたほかの皆は武彦の前に置かれたまだシロップの掛かっていない素のカキ氷を見つめる。こうなっては仕方が無い。他の皆が納得しないというなら言い出し人の自分が食べるべきだろう、と武彦は諦めた。零も武彦の隣に座り、アリアは素早く二つ目のカキ氷を差し出す。
 きらきらとした目で見つめるのはアリアだけではなく、朱里と英里も一緒だった。そして玄関先で未だ蓮の応答と戦っていたセレシュも一旦、電話発信を止め、二人が食べるのを見る事にする。
 武彦が蜜の瓶から適当な量掬い取り、氷にかける。その瞬間変わった色は――。

「ほら、やっぱりイカ墨みたいな黒だ!」
「あらあら、真っ黒」
「……でも下に行くほど薄まっていくの」
「これは思った以上に見た目が良くないですね」
「……何も言えない色だな」
「心病んどるんちゃう?」
「お前らなぁ……」

 がくりと頭を垂れさせた彼に妹、零ははわはわと兄を慰めにかかる。
 そして零は拳を作り、「私も掛けます。えい!」とシロップを掛けた。その色は――。

「紫だ!」
「でも綺麗な紫ねぇ。ラベンダー色みたい」
「零ちゃんのイメージに、あうの」
「これはいい感じでは?」
「なんだ、清々しい色じゃないか」
「なんや、やっぱり武彦さんより零さんの方が心清らかなんやね」
「ち、違いますよ! きっと味の方が問題なんですよ!」
「で、お前ら。シロップを掛けたのはいいが何か読み取れたのか?」

 自分には散々文句を、妹には賞賛の言葉を掛ける皆に武彦は尋ねる。しかし、勇太と弥生は首を振った。

「一応テレパシーで探ってみたんですけど、シロップを掛けただけじゃ何にも分からなかったですね」
「こっちも同じよ。気を巡らせてみたけど、色の変化はまるで化学変化みたいに自然なもので、魔力染みたものじゃないみたい」
「……ということは味、かな?」
「じゃあ、はよ食べぇな。うちも安全を確認して普通にカキ氷食べたいっつーねん」
「見た目は悪くても味がいい時もあるんですよね。僕も頂こうかな」
「朱里、お前勇気あるな」
「えへ」
「私も、食べる。気になるもん」
「……わ、私だって食べてやってもいいぞ。不味くても一口分くらいは減るだろう?」
「英里、気になるなら気になると言ってくれていいんだからね」

 と言うわけで、武彦の黒カキ氷に武彦、朱里、英里、アリアが挑戦する。
 ぱくり、と四人が同時に氷を口に入れる。それを他の皆がごくりと唾を飲み込みながら見守った。すると。

「抹茶だ」
「抹茶ですね」
「抹茶味じゃないか」
「……美味しい」
「うそやろー!? なんでそないな色やのに、味はふっつーなん!? ちょいうちにも食わせてな」
「ほれ、新しいスプーン」
「――う、……マジで抹茶や。なんでこないな黒やのに抹茶やねん!」
「草間さん俺も俺もー!」
「ほい」
「…………ぐ……ぐぐ。確かに抹茶。俺の絵の具味は一体なんで起こったんだ……」
「他にやっぱり何か考えてる事があったんじゃないかしら。――あら?」
「どうした弥生」
「今ちょっと魔力の波長が見えたような気がして。そっちの紫色の方食べてみてくれる?」
「は、はい! 分かりました!」

 武彦の結果は見た目悪し、味は良し。
 アリアは「煙草味じゃなくて良かった」とやっぱり内心思いながら安堵の息をついた。
 さて弥生に促され、零も恐る恐る自分の紫色のカキ氷をスプーンに突き刺し口へを運ぶ。その際、朱里と英里、アリアも好奇心いっぱいのまま彼女のカキ氷を拝借した。
 弥生は今度こそしっかりと見ようと集中する。勇太もまたカキ氷周辺に異変がないか気を張り詰めた。さて、お味はというと――。

「……どうしましょう。私、この味を言葉で表現出来ないんですけど」
「なんでしょうね、この味は」
「不味くはないんだが……不味くはない……、というだけで」
「私、これ苦手。分からないけど、怖い味。食べると心が不安になるの」
「あちゃー、零さんの方は見た目はええのに、味は変っつーオチかいな。一体何が作用してんやろうね? ああもう! 早く蓮さん電話に出てくれへんかなぁ!?」
「落ち着いて、セレシュさん。今、丁度波が見え始めたから」
「あ、今俺も見えたかも。なんかカキ氷付近が揺らいだんだよな。食べる瞬間に皆にこう、器のカキ氷から線みたいなのが伸びて口の中に入る様な……そんな感じ」

 零の結果は見た目良し、味悪し。
 アリア曰く「不安になる味」との事で、零のカキ氷は一旦食べるのを止めた。掛けた本人は困ったように笑うが、調査をしてくれている二人の言葉を静かに待つ。すると弥生と勇太はほぼ同時にカキ氷機に手を伸ばす。その行動のシンクロさにお互いが一番驚いた。

「キミも?」
「あんたも?」
「やっぱり自分で食べてみるのが一番よね」
「俺も再挑戦です」
「なんやねん、二人とも。結局原因分からへんまま食べるんかい。ほんまに大丈夫か?」
「多分ね。毒じゃないのは確かだから大丈夫よ」
「俺既に一回食ってるけどぴんぴんしてるし、その点は平気だと思うぜ」
「他に食べる人ー!」
「「「はーい」」」
「じゃあ、全員分作ってしまいましょう」
「あれ、今うちも入れられたん!?」
「だって面倒だもの」

 と、言うわけで、手を上げたのはセレシュ以外のメンバー。
 セレシュはうーん、と多少まだ納得のいかない顔ではあるものの拒否はせず、再び携帯と格闘する事となった。そして残りのメンバーは大きめの氷を砕きながら交代で氷を削っていく。アリアは英里に言われた通り、足りなくなったら小さめの氷を沢山作りながらそわそわしつつ、機械に入れていく。
 ふと朱里は零に近付き、何事かお願いする。すると零は笑って、キッチンへと入っていった。

「朱里、何を話した?」
「ちょっと実験かな。何、気になるの? 英里」
「変なことをするなよ。あまりはっちゃけ過ぎると私が怒る」
「変な事じゃないですよ。本当に試してみたい事ですから」

 ふふっと悪戯っ子の笑みを浮かべながら朱里は削るのに疲れたというアリアと交代し、そして自分の分を削り始める。やがて出来上がった全員分のカキ氷。テーブルの上に並んだ沢山の器を見ると壮観である。そして蜜を小さな器に分け、いつでも全員同時に掛けられる準備まで怠らない。

「じゃあ、いくわよ」
「「「「「「 せーの! 」」」」」」

 その瞬間、全員のカキ氷にシロップが乗る。
 既に掛けていた武彦と零も蜜を減らす名目で再挑戦だ。
 さて結果はと言うと。

「はいはいはい、俺のは緑色でーす!」
「うちのは青やな。ブルーハワイより濃いめの色や」
「私は綺麗なピンク色よ。サンゴみたいで綺麗」
「私のは一色じゃなくてレインボーなんですけど!」
「朱里、お前のはわかりやすいな。私なんて無色なんだが。……なんだ、色変化を起こさなかったぞ」
「私、黄色。武彦ちゃんは?」
「灰色……」
「兄さんってば。あ、ちなみに私は肌色? オレンジ? そんな感じの色ですね」

 色に関してはこの通り。
 配達の時と同じ色だった勇太を除き、武彦、零、アリアは一回目とは違う色へと変化した。この変化に皆「どういう構造をしているんだ?」と首を捻るばかり。

「さて、私から食べるわ。多分、外れだと思うから」
「弥生、もう理屈が分かったのか?」
「大体ね。じゃあ、いただきま――って、アリアちゃん? スプーンを持ってどうしたの」
「私も、食べる」
「美味しくないかもよ?」
「でも、気になるもの。あと、減った方がいいでしょ?」
「じゃあ、私も頂きたいなっと」
「外れでもすぐに口直しに何か飲めばいいだけの話だろ。問題ない。私も挑戦しよう」
「じゃあ、食べたい人は食べてもいいけど口に合わなかったらすぐに麦茶とかで口を濯いでね」
「「「 はーい 」」」
「うーん。俺も気になるんだけどなぁ。自分の分をまず食べてみるか」
「うちも気になるって言ったら気になんねんけど、外れ宣言されてるもんはよう食わへんわ」

 そして弥生の珊瑚色のカキ氷に皆スプーンを立て、一斉に口に運ぶ。
 次の瞬間、弥生は「やっぱり……」という表情をしつつ、静かに麦茶を口に運びカキ氷を半ば飲み込む。他に食べた面々もまた各々「うっ」「うえ」「……ごめんなさい、なの」と言いつつティッシュに吐き出したり、飲み物で誤魔化しに掛かった。

「私ね、チョコが好きなのよ。だからチョコ味に成れば良いなと思ってたんだけど……やっぱり駄目ね。一緒に来るはずだった旦那が居なくて寂しさの感情が強いみたい。その感情を蜜が汲み取っちゃったみたいだわ」
「ど、どんな味やったん?」
「甘さが全く無く、カカオ100%と言える程苦い、です……」
「しかも酸味も強いので余計に後味が悪い……という……。すまない。これ以上は無理だ」
「アリア、も、無理」
「見た目が綺麗なのは私が頑張って寂しさを紛らわそうとした結果かしらね」

 この言葉に皆大体の理屈を察した。
 色は今皆が振舞っている行動、味は秘められた感情そのものなのだと。しかしまだそれだけでは説明が付かないことがある。

「あ、今回のは俺の見た目通りメロン味だ! やったー!!」
「アリアも自分の食べる。――今度はバニラ味なの。ちょっと幸せになれる味」
「ちっ、灰色でも不味くはないだろう。…………何故、ウイスキー。ああ、こら。アリアはこれはアウトだ、アウト!」
「……武彦ちゃんのけち」
「私の方は、……あ、少し甘みがあります。いちご味に近いかな。今度は怖い味じゃないですよ」
「ほう、やっぱ変化しとんやね。さてっとうちは――う!?」
「セレシュ!?」
「セレシュさん!?」
「な、……なんかし、痺れてきよ、った……」

 残念ながらセレシュは外れ。
 彼女の場合、自分の正体――つまりゴルゴーンである事を隠して生きている事に重点を置いているためその気持ちが蜜に現れたと考えられる。しかしそれを知る者は残念ながらここには居ない。次第に身体が動きにくくなってきたセレシュに流石の皆も慌てふためき、ソファーに座っていた勇太は立ち上がり彼女に席を譲り、セレシュは「あんがとさん」と言いつつソファーにぐったりと凭れ掛かった。

「わー、私のはなんでしょう。さっぱりした甘さかと思えば次に食べる時にはまた違った味に変化するんですけど」
「朱里、私も食べたい」
「その前に英里は何味だったの?」

 朱里の味の変化は「多種多様」。
 それは彼が自分の存在を多方面から変えている事を示している。彼の正体は実は「鬼」。そして皆に隠しているが「Mist」のアッシュ。最後に今目の前にいる朱里。鬼と言っても悪を齎す存在ではなく、むしろ福を引き寄せる能力があり、普段はメンバーやファンにさり気無く与えている。
 英里はと言うと僅かに口をもごらせる。言いにくい言葉だが、言わなければ朱里はカキ氷を分けてくれない。朱里はちゃっかり寄って来ていたアリアと一緒にカキ氷を食べ進めていく。その様子を見て、はぁあっと英里は嘆息した。

「味がないんだ。でもぱちって弾ける。炭酸水みたいな感じだ」
「え? なんで?」
「分からん。食べてみろ。味自体は氷の味しかしない」
「じゃあ交換しますね」

 朱里と英里の器を交換すると、色の変化が起こらなかった英里のカキ氷にスプーンを差し入れ彼はそれを口に運ぶ。そして次の瞬間眉根を寄せた。

「本当に味がないですね」
「それって外れなの? 当たりなの? 俺も一口! わ、本当に弾けた!」
「アリアも食べる! ……味、しないね。う、ぱちぱちするっ」
「……何故だろうな。私もよくわからん」
「私にもちょっとちょうだいね。――あら、本当。味のない炭酸水」

 彼女の効果は記憶喪失に起因する。
 彼女自身もあまり意識していないが、本来の姿は金毛の九尾狐。それを忘れているということで色が無色、そして彼女自身妖力を制御出来ず、バチッとよく電化製品を壊してしまうことから「弾ける」ようになったのだ。

「朱里さんー、これで良いですかー?」
「あ、零さん有難う」
「何? 朱里何を頼んだのさ」
「これ? これは炭酸水。さっき言ってた実験をしようと思ってね」
「?」
「蜜を此処に入れてみるんだよ。氷にかけなくても美味しいのか実験してみたいんだ」
「ほう、それは面白そうだな」
「でしょ?」

 炭酸水の二リットルのペットボトルを受け取ると朱里は氷を入れたガラスコップにその炭酸水を入れ、それから期待たっぷりな気持ちを込めて蜜を大量に注ぎジュースを作り上げる。
 色は透明の青。蛍光灯に透かすとキラキラと輝き、彼はそれを一口飲んだ。

「美味しいー! 美味しいですよ、これ」
「味は、味は何!?」
「パイナップルみたいですね。さっぱりしてて酸味もあるし、飲みやすいです」
「じゃあ、その方法だったら蜜を大量に消費出来るんじゃないか?」
「出来ると思いますよ。……不味くなければ」
「よし、じゃあさっさとやってくれ。俺はもう飽きた」
「あれ、草間さんはもうギブアップ?」
「武彦ちゃん黒と灰色だったもの。飲み物にしたらどんな色か、私見たい」
「勘弁してくれ」

 武彦はぐったりとソファーに凭れ掛かりながら額に手を当て、呆れた息を吐き出す。
 カキ氷と冷たい飲料水とで作り分けられる事が判明した瞬間、皆がわいわい騒ぎ出した事はよい事なのか悪いことなのか。
 それでもアリアは一生懸命氷を作り続ける。きっとこの蜜にも意思があって、自分達の事を楽しませてくれているんだろうなと思い、わざと冷静、明るい等、色々なキャラを作った上でシロップをかけて色と味を楽しみ始めた。ひたすら一人でシャリシャリとカキ氷を作り続ける姿は玩具に嵌った子供のよう。もう殆どの人間はシロップを混ぜたジュースで蜜を消化しようとしていると言うのに。

「アリアちゃん、頭痛くならないの?」
「なんで? 弥生ちゃん」
「アイスクリーム頭痛っていうの知らない? 頭がキーンって痛くなって身体が寒くなったりするんだけど」
「アイスクリーム頭痛? キーンってなるアレ? 寒くなる? アリアそんなの知らない」
「流石はアリアだ」
「ありがとう、武彦ちゃん」
「……褒めたんじゃないんだが」

 不意に携帯が鳴り出し、今まで痺れていたセレシュが起き上がり自分の携帯を取り出す。そこには「碧摩 蓮」の文字があり、彼女はやっと連絡が付いたと応答ボタンを押した。

『やあ、セレシュ。随分と鳴らしてくれたねぇ』
「蓮さん、全然出ぇへんねんもん。うち、今草間興信所におんねんけどね。蜜の件で」
『ああ、あれかい。面白いだろう?』
「それの調査依頼をしたの蓮さんやないの。それについて詳しい事情を聞こうと思うてんけど……」
『けど、どうしたんだい?』
「なんやもう、わからん内に解決したっぽいからもうええわ。あれほんまに毒やないんよね? うちもアレをかけたカキ氷食べてんけど身体が痺れて動けへんようになってもうたわ」
『そりゃあね、あんたは』
「ストーップや。それ以上は言ったらあかんで、あかんったらあかん」
『はいはい。それで蜜は順調に減りそうかい?』
「もう殆ど終わりや、安心せい」

 セレシュは楽しそうに「カクテル風ー!」とか言って遊ぶ朱里の姿や変わらずカキ氷を作り続けてはその時掛ける蜜の感情をわざと変えて楽しむアリアの姿を見て、ふっと口元を綻ばせた。

■■■■■

「おや、これは一体どういうことかねぇ」

 後日。
 アンティークショップ・レンには「ごちそうさまでした」というメッセージを添えられつつ、暑中見舞いが届いた。
 差出人の名前は「鬼田 朱里」と「人形屋 英里」の連名。
 大きなダンボールに詰められたそれは大量の夏野菜。もちろん彼女達特製の野菜である。

「ふふ、この野菜をどう料理するか考えるのも――また一興ってね」

 蓮は可笑しげに煙管を口にし、ふぅっと白い息を吐き出す。

 暑中お見舞い申し上げます。
 ――夏はまだまだ続く。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8537 / アリア・ジェラーティ / 女 / 13歳 / アイス屋さん】
【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】

【登場NPC】
 草間武彦(くさまたけひこ)
 草間零(くさまれい)
 碧摩蓮(へきまれん)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、参加有難うございました!
 今回は不思議なカキ氷の蜜のお話ということで、あっという間の集合で自分が一番びっくりしております。
 さてさて全員のプレイングを読むと調査より蜜で遊ぶプレイングが多かったため今回はこのような形にさせて頂きました。

 蜜は色は表向き、味は内面を現します。
 表向き元気であろうと、内面で不安があったり疑いを盛っていたり、何か隠し事をしていればまずい味になるわけです。
 逆に色が変でも、内面で特に何も悩みがなかったりすると美味しい味になるわけです。草間さんはヘビースモーカーなので黒と灰色にしてみました(笑)
 零ちゃんは人外の存在なのでそこの点で最初と二回目が味が違うわけです。

■工藤様
 アンティークから続いての発注有難うございました。
 無事メロン味に辿り着きました、拍手ー!(ぱちぱち) そして美味しいところ(氷漬け)を持っていってもらったのですが、どうでしょうかね? 削られなくて良かったです^^

カテゴリー: 01工藤勇太, 蒼木裕WR(勇太編), 集合イベント型 |

暑中見舞いに不思議な蜜を~アンティーク編~

「お願いがあるんだよ。ああ、心配しなくても構わない。ただこれを草間 武彦(くさま たけひこ)のところに持って行って貰いたいだけさ」

 そう言ってアンティークショップの主人、碧摩 蓮(へきま れん)は足元から一つのガラス瓶を取り出す。
 大きさは子供の頭程度のそれの中には無色透明の液体が入っている。興味津々でそれを見てれば蓮は持っている煙管をこちらに向けた。

「これはカキ氷の『蜜』さ。祭りでカキ氷屋が赤や黄色のシロップをかけているだろう? あれだよ。でもこれは蜜を氷に掛けた者の感情に反応して味や色を変える特殊な『蜜』さ。大抵は鮮やかな色に変わり味も甘いものだが、酷く落ち込んでたりちょっとでも心に何かしこりみたいなものを抱えていると凄く不味くなるらしい。……色も黒だったりヘドロ色だったりね」
「…………」
「そうそう、ただ運んで貰うだけじゃあんた達に悪いね。じゃあカキ氷一回分の蜜を運んでくれた報酬として二人にあげようかね。ちょっとそこら辺の氷屋に行って試してみるといい。安心しな、毒じゃないからこれで死ぬことはない」

 蓮はガラス瓶を開き蜜を適当なスプーンで掬い指一本分程度の小さなガラス瓶に移し変えるとそれをこちらに渡してきた。
 そこに居た依頼人達はそれを受け取り光に透かしてみる。まだ無色透明なそれは振れば僅かに波立つ。

「ああ、あと武彦達には『暑中見舞いもうしあげます』とでも伝えておいておくれ。どうせ暑さでだらけているんだろうからね。じゃ、頼んだよ。」

 蓮は赤い唇をくっと持ち上げる。その笑みがどこか楽しそうで少しだけ心に引っ掛かった気がした。

「わー、そんな面白そうな蜜本当にアスナが運んでいいの~?♪」
「え、何その蜜。……たしかに変わった『蜜』だけど……本当に味や色が変わるだけ? ……運んでる途中で何かに変化して襲って来たりしないよね……?」
「警戒心もいい加減にしな」
「いてっ!!」

 依頼を頼まれたのは外見五、六歳程度の黒髪が美しい少女、与儀 アスナ(よぎ あすな)。そして偶然アンティークショップに来ていた高校生男子である工藤 勇太(くどう ゆうた)だった。
 アスナは配達依頼をきらきらとした楽しげな目で素直に受けるが、勇太の方はそうはいかない。蓮から配達依頼を出された瞬間から、彼女の依頼でろくな目にあった事のない彼は警戒心をバリバリ抱く。蓮はにっこりとした笑顔を浮かべつつもそのこめかみには薄っすらと青筋が浮かせ、煙管で勇太の頭をぽかりと軽く叩いた。

「大丈夫だよ、お兄ちゃんー。アスナも一緒だもの。蓮そこまで酷い依頼しないよー?」
「だって! 碧摩さんの依頼だものー! そんな可愛らしく終わるはずがないっ!」
「ふぅん、あたしが幼い少女に害を与えるような依頼をする人間に見える、……と」
「ひぃっ!! お願いだから、怒りのオーラを浮かせながらこっちに来ないでー! やります。やりますよーって」
「あははっ! じゃあ、アスナ達もそろそろ行こう? 蓮、行ってくるね~☆」

 蓮がもう一回勇太に煙管、もしくは拳でぽかりとしようとした瞬間、少女から助け舟が出る。
 当然蜜の大きさを考えて持つのは勇太の役割となるが、少女の手に引かれながら二人は店を出る。助かった、とばかりに勇太は胸を撫で下ろしながら草間興信所までの道程を少女と二人で歩き出した。

「アスナね、この蜜がどんな色に変わるのか楽しみなの! お兄ちゃんは~?」
「俺は……色がどんなであれ、味が普通である事を祈ってる」
「もうっ! お兄ちゃんってばそんな気持ちじゃ変な味になっちゃうよ? ――あ、氷屋さん発見~♪」
「う、来たっ。俺の試練の時!」
「うふふ、どんな味になーるかなぁ☆」

 「いらっしゃい」と人の良い店主に迎えられながら、赤布が敷かれたいかにも和風の長椅子が置かれた屋外へと案内される。
 二人はカキ氷を……ただしシロップ抜きを頼む。店主が一瞬首を傾げたが、アスナが「シロップ持参なの~♪」と両手を組み合わせ可愛らしい笑顔で言えば、店主もちょっとでれっとした表情で「そうかいそうかい」と孫娘でも見るかのような目で、氷を削り始める。
 しかし勇太の方にはその手の中にある大きなガラス瓶を訝しげに見る。勇太もまた「てへっ」と笑顔を返す事で今は一旦誤魔化す事にした。

■■■■■

 その頃、青髪に黒目が可愛らしい十三歳ほどの少女がアイスを売り歩いていた。
 彼女の名はアリア・ジェラーティ。台車を引きながら言葉通り「アイス」を売っている。

「アイス、アイスは要りませんか?」
「お、今日も暑いねぇ。一本ちょうだい」
「ありがとうございます」

 外回りのサラリーマンもとい馴染みの客が彼女からアイスを一本買い上げると、ハンカチで汗を拭いながら彼女の手から冷たい氷菓子を受け取る。彼女はにこっと微笑みかけると、客は「また出逢ったら売ってね」等と良いながら営業へと戻っていった。
 そしてまた彼女は台車を引きながらアイスを売り始める。やがて一通り行商を終えると、彼女自身もかき氷屋でかき氷でも頼もうと氷菓子屋へと足を運んだ。
 だがそこで高校生と幼女という組み合わせ、かつ何も掛かっていない山盛りの氷を器に盛ってもらったばかりの二人の姿を発見し、彼女は首を捻る。
 カキ氷ならば普通はシロップが掛かっているもの。しかしみぞれすら掛かっていないように見えるそれに彼女は素直に疑問を抱いた。

「おじさん、あれ、何?」
「ああ、お客さんがシロップを持ち込んだんだ。まあおまけ程度にシロップ分の金額は引いてあるけど、一体なんのシロップを持ってきたんだろうね」
「……あれ、食べてみたいな」
「あ、お嬢ちゃん!」

 アリアは店主から話を聞くと非常に興味を抱き、アスナと勇太の前へととててててっと可愛らしい動作で近付く。
 一方、分けてもらったばかりの小瓶を取り出し、二人は持ってもらったばかりの氷を前に思いを馳せる。
 アスナは素直に興味を。
 勇太も素直に……何も無い事を祈っていた。
 そんな彼らの前にアリアは立つと、二人はシロップをかけようとした手を止める。

「え? え? あ、何か用?」
「アスナ達に何かご用ですか~?」
「……あのね。それ、食べてみたいな。駄目?」
「それって……このシロップの事?」
「アスナは別にいいよ~♪」
「こらこらこら! シロップの説明もしていないのに簡単にOKだしちゃまずいって」
「でも多分美味しい味になると思うよ~? お兄ちゃんみたいにおどおどしてないもん」
「ぐさ。言葉の矢が刺さった」
「? ……そのシロップ、特別なの?」

 アリアは二人が手に持っているシロップをじっと見つめ、それから瞬きを数回繰り返す。
 勇太ははぁ……と溜息を一つ零してから目の前の少女にシロップの説明をした。これは確かに特別性のシロップであること。今は無色透明だが、人の感情に反応して色が変化するらしいこと。しかし感情がマイナスであれば色が汚くなったり、味も変なものに変わること。そして最後にこれは「草間興信所」に持っていくものであることを説明した。
 自分達がもっている小瓶はその配達の報酬。
 蓮に言われて「試しておいで」と言われた経緯を話すとアリアの瞳は輝き始める。

「私、武彦ちゃん知ってるよ。煙草いっぱい吸うのやめられない探偵さん」
「お」
「あら、じゃあ皆武彦のお知り合いね!」
「私もその配達するから、シロップ分けてほしいな」

 アリアはそう二人に言い、勇太達は顔を見合わせる。
 二人としては別に配達に関しては問題ない。一人増えようが運ぶ内容は変わらないのだから。
 問題はシロップである。此処にあるのは二人分だけ。もちろん配達の分のシロップは大量にあるわけだが……。

「アスナね、ちょっとぐらい減ってもばれないと思うの☆」
「偶然だな。俺もそう思った」
「お仕事するって言ってくれているし、アスナも色んな味試してみたいな~♪」
「実はそっちが本音じゃね!?」
「うふふ、おじさーん。もう一つカキ氷、シロップ抜きおねがいね!」

 アスナが幸せそうに微笑む。
 注文をしてくれた少女に対してアリアは自分のお願い事を聞いてくれたことが嬉しくて、ほんのり照れたように笑った。

■■■■■

「さてっと、皆揃ったかー」
「アスナいっきまーす!」
「早っ!」
「えい!」

 好奇心全開、元気一杯のお子様アスナは勇太の合図も待たずにシロップをカキ氷にかける。
 すると無色だったシロップは氷に乗った瞬間、化学変化でも起こしたかのように徐々に色が変わっていく。彼女が持っている氷は次第に黄色系へと変わり、見た目は非常に綺麗。予想としてはレモン味かパイン味と言ったところであろう。

「わーい! 綺麗な色になったー!」
「私もかける、えい」

 アスナが膝の上に器を乗せ、両手を挙げて喜んでいるその横でアリアが配達するべき瓶からちょっとだけ拝借した蜜をかける。すると今度は彼女の氷は次第に紅赤……赤に近いオレンジへと変わっていく。どちらかと言うと外見から見て彼女は青系かと思っていた皆はこの色の変化に目を丸めた。
 一体どうしてこんな色になったのか。このシロップが反応したのは一体アリアの中のどんな感情なのか気になるが、これもまた見た目は非常に美味しそうである。

「おにいちゃん早くー!」
「……どきどきする」
「んー。どうせだったらメロン味がいいな……メロンメロン……」

 勇太はそう小瓶に念じた後、シロップを垂らす。そして彼の願いは天に……ではなく、シロップに届き、その色は綺麗な緑色へと変化していく。それはまさにメロン味に相応しい色あい。
 アスナの黄色、アリアの紅赤、勇太の緑。
 並べてみるとなんてことない、普通のカキ氷の出来上がりだ。

 しかし問題は此処から。
 蓮は言っていた。見た目は良くても味は……と。

「ねえねえ。アスナの一口あげるから、皆のも一口ちょうだい」
「私も、欲しい」
「俺も他の二人がどんな味になったのか気になるな。一つずつ食べていくか」
「じゃあ、アスナのから食べよ! はい!」

 言いつつアスナは自分のカキ氷を皆が食べやすいように前へと出す。
 二人が一口分掬った後、自分もまたスプーンで氷を崩し、シロップが掛かった部分を食べた。黄色のシロップは二人の手に渡っても変化せず、アスナの感情をそのまま表現し続ける。そして皆食べた瞬間、舌に乗った味に目を丸めた。

「わ、これ面白い♪ レモン味かと思ったのに違うんだ?」
「レモン味でもパイン味でもない……なんて言うんだろう」
「んー、これはミックスベリー+ソーダ+アイスクリーム……的な。すげー美味い。祭りとかじゃ食べられねー味だよな」
「うふふ♪ これは見た目とのギャップが面白いの! アスナ大成功ー!」
「……じゃあ、次、私の」

 アスナのカキ氷の感想を各々述べてから、そっとアリアが自分のカキ氷を差し出す。
 紅赤色のシロップが掛かったそれをまたしてもスプーンで各自掬ってからそっと口の中にいれる。今度は意外性をついてトロピカルな味だったらどうしようか、それとも見た目から想像も付かない不思議な味だったら……。
 皆どきどきしつつ一斉にその紅赤のカキ氷を口の中に運ぶ。
 すると。

「これ凄く甘ーい!」
「でも後味はすっきりしてて食べやすい! 俺割と好み!」
「……とても甘いけど、後味は氷が溶けるようにスッキリ……。私、こんな味なんだ……」

 アリアは自分の手の中にある器を見下げながらどうしてこうなったのか首を傾げる。
 色が紅赤に変化した時、自分でも驚いた。食べた味にもびっくりした。彼女は知らない。皆も知らない。それがシロップを追い求めた情熱と好奇心の感情の味である事を――。
 さて最後は勇太のカキ氷である。
 緑色のカキ氷の予想は勇太の願いが届いているならばメロン味だ。此処まで順調に色も味も進んできた為、今回もまた皆笑顔のままカキ氷を掬ったスプーンを口の中に入れた。

 が。

「まっずーい!! アスナ、こんなのいらない!」
「……吐きそう。私も、いらない……」
「……なんか……絵の具みたいな味がする……」

 各々口を押さえ、失礼だとは思いつつも地面にぺっと溶けたカキ氷を吐き出す。
 そんな三人の様子を見た店主は慌てて水を持ってきてくれ、三人はありがたくそれを一気飲みすることにした。
 落ち着いた三人を見て店主は「一体何があったんだい? 異物混入でもあったのかい?」などと心配してくれたが、そこはそこ。勇太が「すみません、ちょっと虫が乗ったのをみちゃったもので」と綺麗に誤魔化した。流石に食品にそんな事があれば三人が吐き出した事も納得せざるを得なかった店主は「もう一杯おまけしてあげようか?」と優しく声を掛けてくれたが……。

「お兄ちゃん。蓮のこといっぱいいっぱい疑ってたからあんな味になったんだよ。アスナは自分の分だけでもういいもーん♪」
「私も、これだけでいい……甘い、美味しい」
「う、う、う……なんで俺のだけ」

 店主の気遣いを受けるとまたシロップを掛けなければいけないような気がして、勇太は手の中に溶けていくカキ氷の器を手にしながら有り難く辞退する事にした。
 隣ではシャクシャクシャクと良い音を立てながら少女二人がカキ氷を食べる。
 リーンリーン、と店先に飾られた風鈴が風に煽られて鳴るのを聞きながら、勇太は心の中で滝のような涙を零していた。

■■■■■

 そして無事三人は草間興信所に辿り着き、彼らを迎えてくれたのは草間 武彦(くさま たけひこ)の妹である草間 零(くさま れい)であった。
 彼女は三人が持ってきた蜜を見ると「あらあら」と笑いながら皆を中に入れ、冷たい麦茶を用意する。その間にソファーに座っている武彦と対面するように三人はもう一つのソファーに仲良く並んで座り、ずずいっと蜜を差し出した。
 そして此処に来る途中の経緯を話すとアスナは元気いっぱいの笑顔で両手を組む。

「アスナね、蓮から伝言貰ってるの! 『暑中見舞いもうしあげます』だって!」
「くっそ、蓮の奴。また厄介事を持ってきやがって」
「大丈夫だよ武彦、アスナも一緒に食べてあげるから☆」
「いや、草間さんはきっと墨のようなカキ氷になると思う」
「どういう意味だ、こら」
「いっだー!!」

 勇太がうっかり滑らせた言葉に武彦が拳骨を降らす。
 途中参加のアリアは零が出してくれた冷たい麦茶を飲みながら、もし武彦達があのシロップを使ってカキ氷を食べたらどんな味になるんだろうと真剣に考える。……煙草の味だけは嫌だなぁと思ったのは内緒。
 武彦は『暑中見舞い』と言う名前のシロップのガラス瓶を前に「どうすんだよ、これ」と添えられていた紙をぺらりと捲る。

「何はともかく、お使いお疲れ様です。冷たい麦茶を飲んでゆっくり休んで行って下さいね」

 そんな優しい零の言葉には皆心から「はーい」と片手をあげて返事をすると、彼女はふふっと可笑しげに笑った。

―― Fin…

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1076 / 与儀・アスナ (よぎ・あすな) / 女 / 580歳 / ギャラリー「醒夢庵」 手伝い】
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8537 / アリア・ジェラーティ / 女 / 13歳 / アイス屋さん】

【登場NPC】
 碧摩 蓮(へきま れん)
 草間 武彦(くさま たけひこ)
 草間 零(くさま れい)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。
 今回は蜜という配達依頼を有難うございました^^
 集合型プレイングということで三人集まってのどたばた騒ぎ、いかがだったでしょうか?
 可愛い女子二人に可哀想な男子高校生。
 プレイングを読みながらどう組み立てようかと幸せになったものです。

 続きとして「草間興信所」には届けられた後の話もあります。
 興味が湧きましたらぜひ遊びに来てやってくださいませ♪

 ではでは、今回はこの辺で失礼致します。

カテゴリー: 01工藤勇太, 蒼木裕WR(勇太編), 集合イベント型 |